世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に対する解散命令請求と、信教の自由が脅かされている問題で、家庭連合を擁護する立場で岸田政権を批判する元栃木県議会議長の増渕賢一(としかず)氏に政治家としての信念を聞いた。(聞き手・長野康彦、写真・豊田 剛)
――国際勝共連合、家庭連合との関わりを持つようになった経緯を教えてください。
僕の両親は2人とも保守についてものすごく強い信念を持っていたので、僕は60年安保とかそういう左翼運動には全く関心がなく、むしろ左翼をどうやってぶっつぶしてやるかというふうな考え方だった。そうした中で、勝共連合が紹介され、非常に話が合いました。もう50年の付き合いになります。
僕は50年間、勝共連合とお付き合いがあるから、革新自治体の時代を知っています。革新府政というのは国の秩序を乱します。京都の蜷川(にながわ)府政(1950~78年)にしても大阪の黒田府政(71~79年)にしても、ことごとく中央政権に反発していました。
――岸田文雄首相(自民党総裁)が家庭連合を含めた関連団体と関係断絶宣言をしました。
革新自治体を打倒するための先頭に立ってくれたのが国際勝共連合でした。その時代を知っているから、岸田さんが家庭連合を目の敵にするというのは一体どういうことなんだと思いました。安倍晋三さんがご存命の時には、岸田さんは順調にやっていました。安倍さんが亡くなった途端に迷走しだしました。どういう信念があってやっているかと言えば、全く信念がない。岸田さんが考えていることは、自分のことだけ、政権維持だけです。
しかし、公認権を総裁が握っているから、現職の国会議員は全く反対できません。地方議員は国政に関する関心はさほどないから、それなら僕がやるしかないと思って声を上げることにしました。
地方議員の本質はよく知っています。党本部の言いなりです。共産党も、もちろん公明党も自民党も立憲民主党も、みんな一緒です。自分の考えなど全くありません。僕はたまたま勝共連合とのお付き合いもあったし、自民党の青年議員連盟でその活動もしました。 ――岸田政権の支持率が低下しています。これだけ支持率が低下したら、諸外国であれば暴動が起きたり、政権を維持する正統性がないと思いますが。
小選挙区制の弊害です。小選挙区制における党のトップというのは独裁者です。党員の生殺与奪の権利を握っていますから。
勝共連合の何十周年大会というと、昔はキラ星のごとく国会議員が並んでいました。去年の55周年大会は僕が来賓代表でした。なぜ国会議員がいないのでしょうか。確かに意気地のないのはそうなんですが、総裁に逆らうと次の選挙で公認が取れないからです。そういうことです。小選挙区選挙において公認が取れない無所属で戦うというのはどれだけ難しいでしょうか。誰一人として家庭連合擁護の発言をする自民党系議員はいません。これは小選挙区の弊害なんです。
――解散命令請求が出され、その前には関係断絶が行われたことによって、人権侵害や信教の自由を脅かす事態になっています。
党員に対して家庭連合との接触を持ってはいけないというのは、これは党員といえども個々人ですから、個々人の思想、信条を党本部が縛ることになるので、あってならないことです。信教の自由というのは基本的人権の最もコアな部分です。岸田総裁の下での自民党は全く民主主義、自由主義に反しています。解散命令などというのは信教の自由を否定することです。今回のような解釈は、明治政府が成立し、明治憲法ができてから一度たりともありませんでした。
一度あったのは、不敬罪で解散させられた大本教です。僕は高橋和巳(かずみ)の『邪宗門』という小説を読んだことがあります。解散命令というのはどういうものか、いかに重大なものかということは、この問題が起きる前から頭の中にありました。なんだこれは、戦前の特攻警察の不敬罪と同じことではないかと。
今、岸田内閣、岸田自民党がやっていることは不敬罪の適用と全く一緒です。戦前の治安維持法、不敬罪の適用と同じようなことを自主的にやっているというふうに僕は思っています。
――岸田首相は国民の内心の自由にまで踏み込んでしまいました。現状ではどうすることもできないのでしょうか。
国民の意識が高まればこんなことは起きないはずなのですが、基本的人権ということについて国民の意識がそこまでいっていないのです。特に基本的人権が云々(うんぬん)って騒ぐ左巻きの連中が盛んにこれを推進、後押ししているわけです。マスコミを含めて。なかなか現状では阻止することは難しいでしょう。裁判官といえども人だから、世論に押される形で私たちにとっては好ましくない判決が出るでしょう。僕が言いたいことは、大本教の解散と根っこは同じですよということです。
――信者がもっと声を上げよと言うジャーナリストもいます。
家庭連合の本部がだらしなさ過ぎます。幸福の科学でもちょっと攻撃を受けたら100倍返しです。それが宗教団体の怖さなのに、家庭連合の本部は全然…。今の教会の幹部はいい子になり過ぎてしまっています。反論すればいいのです。記者会見の場をもっとつくるなりして、ガンガンやればいい。
教会員であったり、教会2世であるという理由で、就職の内定取り消しとか、何かのボランティアで参加取り消しとか、今まで借りていた会場が今度の事件以来借りられなくなったとか、実害があるものはどんどん裁判をやればいいのです。実害なのですから。大会をやって同じ人ばかりに話させるだけでは駄目です。正直だらしないです。本当に自分たちの宗教を守るつもりがあるのかと思います。
――ご自身、何か信仰はお持ちですか。
いや、ごくごく普通の日本人として仏教です。真言宗智山(ちさん)派の在家勤行集は毎日唱えています。親父(おやじ)が亡くなって宗教心に目覚めたっていうか、うちの宗旨はこういう宗旨なんだっていうことに目覚めて、それで、親父が亡くなって、100カ日の法要だとか、必ず在家勤行集、その在家の人が唱えるお経を、法事の時にはお坊さんが先頭で唱えています。じゃあ、在家のわれわれはこれを唱えればいいのかと思って、それ以来、毎日唱えるようにしています。20分ぐらいかかるけど、毎日唱えています。
大本教弾圧事件 1921年と35年の2度にわたり起きた国家権力による戦前日本最大の宗教弾圧事件。特に35年には内務省の警保局・特高警察が治安維持法違反や不敬罪などの容疑で大本教信者を大量に検挙し教団を破壊した。
【メモ】ご自宅に伺い、話を聞かせていただいた。ざっくばらんに話す飾らない人柄が印象的だった。その揺るがぬ保守の姿勢と宗教への理解は、ご両親の存在と読書体験によるものだとお見受けした。毎日10㌔を目標に歩き、腕立て伏せ、足上げ腹筋、スクワットをそれぞれ20回、それを5セット、毎日やる。超人的である。