【連載】中国、薬物で米国を弱体化 「もしトラ」どうなる米外交 米国第一政策研究所上級研究員 スティーブ・イェーツ氏に聞く(下)

フェンタニル問題について話し合う、バイデン米大統領(写真中央)ら=2023年11月21日、(UPI)

――中国企業が原料を製造・輸出する合成麻薬「フェンタニル」が多くの米国民を中毒死させている。米社会の不安定化を狙って、中国が意図的に原料を輸出している可能性は。

これについて最も説得力のある証拠が米下院中国特別委員会から出された。フェンタニルの原料となる化学物質を中国国内で製造し流通させることは違法である。にもかかわらず、中国政府は海外向けの製造・輸出は認め、さらに補助金まで出していた事実を同委員会が突き止めたのだ。

<前回>中国の影響力、全面排除を  「もしトラ」どうなる米外交 米国第一政策研究所上級研究員 スティーブ・イェーツ氏に聞く(中)

この違法活動はメキシコの麻薬カルテルと協力して行われている。麻薬カルテルのマネーロンダリング(資金洗浄)を行う金融機関に対しても、中国政府は極めて寛容な対応を取っている。

私にとってフェンタニルは個人的な問題でもある。昨年10月に娘がフェンタニル中毒で亡くなったのだ。私は中国共産党の意図的な政策が娘の死に直接的につながったと信じている。私だけではない。何十万もの米国民がフェンタニルの違法取引によって家族を失っている。中国共産党はこの事実を知っているのみならず、補助金を出して後押ししているのだ。

米国の政治・経済界の指導者たちがこのような国家に対し過剰な依存を許すのは気が狂っている。中国と協力すれば問題は改善するのか。するわけがない。

米中の「新冷戦」は、米国に対する包括的で無制限の戦争なのだ。軍事的な戦争になることを望まないが、われわれはすでに多くの命が奪われている。フェンタニルだけでなく、新型コロナウイルス禍もそうだ。

米国の指導者には、われわれの家族や地域社会を守る、つまり米国を第一に考えてほしい。家族を失った何十万もの米国民はそう願っている。彼らは大統領選で投票し、これを強く訴えたいと思っている。

――米南部国境で中国からの不法移民が急増している。中国政府が工作員を送り込んでいるとの指摘もある。

拘束された中国からの不法入国者は、圧倒的に若い男性が多い。軍人の年齢層でもある。全員が軍人かと言えば、そうではないだろう。

拘束を逃れた人数はもっと多く、彼らが誰で、どこで何をしているのか分からない。情報収集や破壊工作の要員なのか、あるいはサイバーセキュリティーや原子力の専門家なのか。

中国は人類史上最も厳しく統制された監視国家であり、全国民の情報を管理している。従って、中国共産党がこれらの不法入国者を知らないと仮定するのは合理的ではない。何らかの目的を持って米国への不法入国を試みたと仮定しなければならない。

――中国による薬物や不法移民の流入は、「米国侵略」の一環と見るべきか。

その通りだ。米国侵略は進行中だ。われわれが甘い対応を取る限り、これは継続・拡大すると予想しなければならない。

昨年、中国の偵察気球が米国に飛来する事件が起きた。気球をミサイルで撃ち落としたのは、米本土を横断し、大西洋に到達してからだ。バイデン政権は当初、気球は有益な情報は収集しておらず、中国への通信も行われていないと主張していたが、実際には米国内の機密地域の上空を飛行しながらデータを送信していた。

この対応が中国共産党にどのようなシグナルを送ったか。われわれが最小限の対応を取ったことで、中国はさらなる行動に出ると予想する必要がある。

(聞き手=本紙主幹・早川俊行)

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