
トランプ前米政権の高官らによって設立された「米国第一政策研究所」が先月出版した書籍『米国家安全保障への米国第一アプローチ』は、第2次トランプ政権が発足した場合の外交・安保政策の指針になるとみられている。同書で中国政策の章を執筆したスティーブ・イェーツ同研究所上級研究員が世界日報のインタビューに応じた。(聞き手=本紙主幹・早川俊行)

――トランプ前大統領が返り咲いた場合、対外政策はバイデン政権からどう変わるか。
継続性があると多くの人が言っている。これは事実である部分と事実ではない部分がある。例えば、通商政策における関税の活用だ。
トランプ政権が関税を導入した時、人々は世界的な貿易戦争になり、悲惨な経済的影響が生じると警告した。だが、今は関税が通商政策の正当な手段として超党派の支持を得ている。われわれはグローバリズムや自由貿易理論から離れ、取引的で戦術的な通商アプローチへと移行した。これはバイデン政権でもある程度引き継がれている。
だが、トランプチームの通商・経済アプローチは、関税に限定されない。米経済を混乱させずに関税が機能したのは、米国の起業家精神を解き放ったからだ。大規模な規制緩和を実施し、エネルギーや食糧供給の自立を進めた。敵対的な競争相手への依存度を低下させることで、より強い立場から交渉できるようにすることに重点を置いた。
これはバイデン政権の戦略には存在しないものだ。トランプ氏が当選すれば、レアアース(希土類)やその他の重要鉱物、エネルギー、原子力、通信・技術分野で、米国内および同盟国との協力に重点を置く政策へと速やかに回帰するだろう。それによって中国への依存度を減らし、成長分野や起業家精神、同盟国とのパートナーシップを解き放つのだ。
――トランプ氏は孤立主義者と批判されることが多い。
米国のメディアや専門家が絶えずそう言うため、海外で誤った印象が広がっている。米国第一政策は孤立主義ではなく、グローバリズムからの脱却だ。

グローバリズムの下で、国連や世界貿易機関(WTO)などの国際機関が問題を解決または緩和してくれると信じられてきた。だが、現実はそうなっていない。トランプ氏は、中国をWTOに統合しても中国の貿易慣行は変わらなかったと実際に訴えた最初の大統領だと思う。
国際機関に任せられないなら、二国間主義、地域主義、有志国ベースで行動を取る必要がある。これは孤立主義ではない。別の形の国際主義だ。
トランプ氏は同盟国に敵対的と言われることもある。だが、米国史上、トランプ氏ほど親イスラエルだった人物はいない。日米同盟もトランプ氏と安倍晋三首相の協力の下で繁栄した。
――バイデン政権下でロシアのウクライナ侵攻やハマスのイスラエル攻撃が起きた。米国の抑止力低下が否めない。
抑止力の復活は絶対に不可欠だ。トランプ氏は1期目に抑止力の理論を実践した。シリアへの巡航ミサイル発射のような限定的・戦術的な武力行使、イランに対する「最大限の圧力」、イスラエルに対するエルサレムの首都認定など同盟国への絶対的なコミットメントがそうだ。トランプ氏は同盟国のために力強く行動する一方、秩序を不安定化させる勢力には制裁などの圧力措置を講じた。その結果、彼の4年間に新たな戦争は起こらなかった。

ロシアのウクライナ侵攻は、欧州の抑止力の失敗だったと認めざるを得ない。欧州に負担の分担を真剣に考えさせ、外部に頼る前にまず自分たちで欧州を守るという原則を理解させなければならなかった。トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)の同盟国に圧力をかけることをいとわなかったが、バイデン氏はこれをやめた。アフガニスタンからの撤退も米国のコミットメントへの懸念を高めたことは明らかだ。