親米保守の改憲に注意を 麗澤大学准教授 ジェイソン・モーガン氏に聞く(上)【連載】日本の憲法改正―論客に問う(5)

――2018年の著書『日本国憲法は日本人の恥である』によると、現行憲法は強いイデオロギーを背景に、米国から押し付けられたものであることが強調されていた。

私の結論としては、憲法改正よりも憲法を廃止し、日本人自身が自分たちの求める形で、新たに憲法をまとめる、または憲法は必要ないといった選択をすべきではないかと思っている。

米国からすれば、現行憲法は日本を縛る支配の証しだ。最近、米国の雑誌に「日米同盟はもう考え直すタイミングが回ってきている。同時に太平洋戦争と呼ばれる大東亜戦争の意味を考え直すべきだ」という旨の主張を寄稿した。

すると、米国人読者から反発があった。「米国人は日本を正しく導いた」とか、「天皇崇拝などとんでもないことをやっていたので、我々がそれをやめさせた」などだ。米国人の認識として、戦前の未開な日本という国に、先進的な憲法を与えて正常な国にしたという歴史観が強い。だから憲法によって抑え込む必要があるという考え方だ。

Jason Morgan 1977年、米ルイジアナ州生まれ。ハワイ大学で修士号、ウィスコンシン大学で修士、博士号を取得。現在、麗澤大学国際学部准教授。著書に『バチカンの狂気』『LGBTの語られざるリアル』など。

憲法改正は、その押し付けられた憲法を完全に受け入れるという意思表示になりかねない。

――今、日本国内で懸念している状況は。

日本国内の親米保守だ。もっと別の言い方をすれば親ワシントン派、すなわち米国を動かしている政治家や企業家、知識人といったエリート層と近く、彼らの政策や取り組みを喜んで受け入れている人々だ。

現在の米エリート層は宗教などの伝統的な価値観を憎悪している。それはまさに人間を憎む「反人間主義」とも呼べる価値観で、しかもそれを世界に発信している。

こういった米国の本質はなかなか日本人には見えてこない。日本人は「西欧」の一員だという意識かもしれないが、米国側は一切対等とは思っていない。むしろ、イラク戦争やLGBT政策など、西欧のエゴに日本を利用している。

――これまで反米か親米かが、一種の思想の判断基準になっていたが、現在ではその見方は通用しないと考えるべきか。

反米や親米という話から離れて、大事なのは「親日」かどうかということだ。反米・親米という分け方自体、賞味期限の切れた話題と言えるだろう。

では、「反日」が問題かと聞かれれば、それも違う。反日よりも「無日」であることが問題だ。仮に「日本が好き」でも、政治的には行動や主張を米国中心に考え、日本の都合を後回しにするなら、「無日」状態になってしまう。

ホワイトハウスで行われた共同記者会見に臨む岸田首相とバイデン米大統領=4月10日(UPI)

――岸田文雄首相は憲法改正に意欲を見せているが。

岸田首相が能登半島への災害支援より、ウクライナ支援を優先している姿勢を見ていると、日本国民を貢ぎ物にしてバイデン大統領のご機嫌取りをしているのかと感じる。米国にべったりの岸田首相に憲法改正を任せるのは、私はリスクが高いと思う。

――仮に「無日」の親米派に憲法が改正された場合、想定される最悪のケースは。

9条の改正で、自衛隊の指揮権を米国に握らせてしまうことだ。自衛隊は世界的に見ても規律正しく、優れた技術力を持っている。そんなトップレベルの優秀な軍隊が米国の手に入れば、自衛隊は米兵の代わりに海外の最前線へ送り込まれるに違いない。

もっと言えば、日本と米国の融合が進むことで、日本が米国の第51番目の州になってしまう可能性も出てくる。確率としては低いと信じたいが、政治家たちが現在のような方向で進んでいけば、そういうリスクも生じてくる。(聞き手・石井孝秀)

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