――トランプ前米大統領は歴代政権の中国に対する「関与政策」が誤りであったことを認め、対中政策を大転換させた。トランプ氏が再び大統領になった場合、中国にどう対応するか。
対中政策の転換はトランプ氏の最大の歴史的業績であり、これを継続することになるだろう。私が知る限り、トランプ氏の世界観を変えるような変化は何もない。むしろ、トランプ氏の退任後に世界で起きている出来事は、中国に対するトランプ氏のアプローチが正しかったことを裏付けている。
従って、トランプ氏は中国が国際秩序を不安定化させるのを防ぐという目標を維持すると予想する。そして、これまでの政策をさらに拡大させ、実行するだろう。
――中国が台湾を軍事侵攻する可能性をどう見る。
懸念すべき事態だ。デービッドソン前米インド太平洋軍司令官は、中国人民解放軍創設100周年の2027年までに起こる可能性は十分あると明言している。それ以前に起こり得ることを示唆するものはたくさんある。
懸念すべきは軍事侵攻だけではない。海上封鎖やさまざまなグレーゾーン活動もそうだ。われわれは非常に危険な時期にある。
米国が指導力を発揮することは極めて重要だが、同時に米国は軍事的抑止力を備え、台湾に軍事行動を取ることはプラスにならないことを中国に明確に示す必要がある。
――トランプ氏は北朝鮮の金正恩総書記と首脳会談を行った。日本ではトランプ氏が業績を残すことに前のめりになり、核開発問題で譲歩をするのではないかとの懸念が根強い。
トランプ氏はこれまで試したことのない大胆かつ革新的なことに挑戦し、批判を浴びることを厭(いと)わない指導者だ。トランプ氏は歴代大統領が北朝鮮政策で失敗してきたことを踏まえ、首脳レベルの対話を試みた。残念ながら、金正恩氏はハノイでの首脳会談で提案に応じなかった。
だが、北朝鮮を巡る状況は大きく変わってしまった。トランプ氏が退任した21年以降、北朝鮮は世界を不安定化させようとする権威主義勢力の一部となっている。ロシアに砲弾を提供し、ウクライナ人を殺害している。イランともさまざまな面で協力していることが公に報告されている。北朝鮮は北東アジアを越えて有害な影響力の輸出を試みている。
従って、トランプ氏が来年復帰した場合に直面する状況は、退任時とは大きく異なっている。北朝鮮が内部で政策アプローチを変更し、韓国に対してより攻撃的な姿勢を取っていることも現実的な懸念だ。
――イスラエルとイスラム組織ハマスの紛争を巡るバイデン政権の対応をどう見る。
バイデン政権のイスラエルに対するアプローチは残念だ。米国のメッセージは明確である必要があるが、残念ながらそうなっていない。バイデン政権はイスラエルを支持すると述べる一方で、イスラエルの自己防衛戦争を細かく管理しようとしている。イスラエルに対する公然の批判は、米国とイスラエルが共有すべき目標の達成に役立っていない。
共有すべき目標とは、ハマスが昨年10月にイスラエルを奇襲したような惨劇が二度と起こらない状況を築くことだ。これはイスラエルの基本的な目標であり、米国も共有すべき目標だ。イスラエルがその目標を達成できなければ、イスラエルの抑止力だけでなく、イランなど悪意ある主体に対する米国の抑止力も弱体化する。これは世界に影響を及ぼすだろう。米国は明確なメッセージを発し、行動と一致させる必要がある。(聞き手=本紙主幹・早川俊行)