揺れ動く東アジア安全保障 軍事ジャーナリスト・鍛冶俊樹氏に聞く

10日に投開票された韓国総選挙(定数300、任期4年)は、革新系最大野党「共に民主党」が175議席を獲得し、圧勝した。中国の野心によって、揺れ動く東アジアの安全保障にどのような影響を与えるのか、軍事ジャーナリストの鍛冶俊樹氏に聞いた。(聞き手・村松澄恵、豊田 剛)
かじ・としき 1957年、広 島県生まれ。埼玉大学卒業 後、83年に幹部候補生として 航空自衛隊に入隊。主に情報 通信関係の将校として11年間 勤務の後、94年に退職。その 後、軍事ジャーナリストとし て評論活動を展開している。

――韓国総選挙で野党が議会で多数を占めたことによって東アジアの安全保障に影響はあるか。

立法の主導権を野党に完全に握られる形になった。ただ、外交と安全保障は大統領の専権事項なので、親日米路線の外交路線は維持される。日米韓の3カ国の防衛協力体制も次の韓国大統領選挙の2027年までは続くだろうが、その後が危うい。

中国、ロシア、北朝鮮から見ると日米韓の体制を突き崩す絶好の機会。当然、これを見逃すはずがない。中露北の3カ国は共に情報戦が巧みで、相手国の世論を操作することもできる。今後、情報機関がさらに暗躍するのではないか。

例えば、韓国軍の不祥事や、日米韓の連携に水を差すような事柄が暴露される可能性がある。

今回、与党「国民の力」が負けた理由として、経済問題が挙げられる。韓国の尹錫悦大統領は「物価高の現実を知らない」とキャンペーンを張られたことが影響した。

今回の選挙で、経済がうまくいかなくなると与党に不利に働くと学んだ野党は次の大統領選まで経済を停滞させるような動きをするのではないか。そうすると、次の大統領選において革新系が政権を奪還するシナリオができる。

台湾の立法院も韓国と同様に野党が主導権を握っている。韓国と台湾が共に、国防予算などで圧力がかかるだろう。日米韓あるいは台湾を含めた安全保障関係は今が頂点であって、下り坂になるのではないかと危惧している。

――日米韓台の軍事的な連携はできるのか。

日米韓台連携の一番の障害は、日本の集団的自衛権の問題だ。日米韓台の連携をアジア版NATOと言う人もいる。アジア版NATOを目指すこと自体は正しい議論だと思うが、その場合に中心になるのは日本だ。

もし台湾に中国が侵攻した場合、日本が介入ができるかというと、米国の後方支援ができるだけで、ほとんど何もできない。

この問題があるが故に、米国も非常に悩んでいる。韓国やオーストラリア、フィリピンを加えて台湾を守ろうという形をつくったが、肝心の韓国で野党が有利になり、国防予算が制限されるだろう。そうすると、韓国が台湾まで守るのは難しいという話になる。

現状、直ちに日米韓の包囲網が崩壊することはないが、中国にとって非常に有利な状況になったと感じる。

――ウクライナや中東での争いが東アジアに及ぼす影響は。

ウクライナ戦争で弾薬が非常に足りなくなってきた。「ゼレンスキー疲れ」とよく言われるが、事実だろう。

昨年、反転攻勢するとウクライナのゼレンスキー大統領は言ったが、大失敗だった。これで戦争がいつ終わるか分からなくなっている。

バイデン米政権は建前上支援したくても、議会の同意が得られないとしている。今年は米大統領選挙があるので、バイデン氏もウクライナ支援の姿勢を示し続けるだろうが、バイデン氏が再選したとしても、そろそろ「やめてくれ」という本音が出るのではないか。

ただ、もし本当にこれでウクライナとロシアが停戦になるかと、ロシア側は一気に極東に戦略を移すことができる。これは第2次世界大戦の末期と同じ状態で、ヨーロッパ戦線終了後、スターリンは極東に軍隊を持ってきて、満州や北方領土に侵攻した。危機が一気に東アジアに入ってくる可能性がある。

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