元衆議院議員の大泉博子氏は先回、国民の人気取りに執着する政治家と、その政治家に忖度(そんたく)する官僚によって日本の政治の質の低下に言及。少子化問題に関する政策で、効果の低いはずの現金給付に頼らざるを得ない背景を読み解いた。最終回は少子化問題の核心となる若者の結婚率を上げるにはどうすべきか尋ねた。(聞き手=池永達夫)
――少子化問題を団塊の世代から捉えると。
団塊の世代で一番大きな失敗は、子育ての失敗だろう。
われわれの社会は全婚社会だった。みんなが結婚する。その昔は次男三男で結婚しない人はいっぱいいた。英国だろうと、どこの国でもそうだった。全婚社会をつくったのは、戦後の一時期だけだ。
団塊世代は幼少時の貧しい家庭から這(は)い上がって育ってきたから、自分の子供にはそんな苦労はさせまいとした。その団塊世代は、高度経済成長期にあって就職が割と楽だった。一生、飼われたまま、年金ももらえ逃げ切ることができたし、まさにスーダラ節の世界だ。
だが子供を育てる哲学がなかった。自分がやってもらえなかったこと、例えば学歴や習い事等をやってあげる程度で、団塊ジュニアの方は、親が経済的にうまくいっているから、引きこもってもパラサイトシングルになっても大丈夫だというので、結局、結婚しないまま終わった子供を多くつくってしまった。
――政府の少子化政策は。
今回の少子化政策の中身は、昨年の6月に「こども未来戦略方針」を決定しており、それからほとんど変わっていない。
ただ問題は財源を示していないことだ。2028年度中に安定財源を決めるとしているが、嘘(うそ)じゃないかとみんな思ってしまう。もう最初から壊れている。
――ポイントとなる若者の結婚率を上げる一番の手だては何か。
社会を二極化させたアベノミクスは成功していない。所得階層的に見ればよく分かるが、若い人ほど貧乏だ。
だから若い人にお金をもたらす経済政策が必要だ。
1990年代後半から、生産年齢人口が減ってきている。労働力として政府が表立って手を打ってきたのは、まず女性で次が高齢者だ。だから、女性の就業率も延び、定年も60歳から65歳まで伸びた。合わせて年金支給開始年齢を延ばしたりした。
だまって裏口を開けていたのは移民だ。技能研修生制度で年間40万人近く、農業と建設に実質的に労働人口として扱ってきた。そして、高齢者も女性も技能研修生もみんな低賃金だ。
こういう低賃金で雇える人がいるから若い人を雇う必要はなくなる。全体の賃金を下げてしまう。今、最低賃金は韓国より下だ。
とんでもない政策の誤りばかりだった。移民は世界で第4番目に多い国になっている。
――そんなに増えているのか。
だって技能研修生だけでも、年間38万人ぐらい入っている。安倍晋三元首相は2018年、入国管理法を改正し定住要件を広げた。
だが、逆に研修生の方がもう来なくなろうとしているから、慌てている。理由は日本の賃金が低くなったからだ。
十数年前までは中国人がいっぱい来ていたが、もう来なくなった。自分の国で働いた方がいい。そのうち、ベトナム人が来なくなる。社人研の論文では60年代には移民人口は総人口の12%を占めるという試算がある。10人に1人は移民になる見込みだ。そうなると来てくれるのはアフリカぐらいしかなくなるかもしれない。アフリカはまだ多産多死社会だ。
移民は必ずしも高い出生率をもたらすとは限らないが、家族帯同を許し有益な労働力として丁重に扱う政策が必要だ。まずは、現代版奴隷制度としか言いようのない技能実習制度の改正から始めるべきで、政府は着手する予定だ。
――人間が生物としての原初欲求が抑えられた文明病の側面もあるのでは。
一番大きな要因は、人口学でいう多産多死から少産少死に移ったことだ。それが多くの国で見られた。要するに、欧州だけでなく、南米や東南アジアもみんな同じになった。
昔はたくさん死んでしまうから、歩留まりを考えてたくさん産むということをしていた。それが医療と栄養状態が良くなって、死亡率が下がってくると、そんなに産む必要がなくなって少産になってくる。そのプロセスには、多産少死があってたくさん子供ができてしまうというのがあるが、もう少したつと少産少死になっていく。
子供は、かつては生産財だった。日本だって戦前は、生業(なりわい)の8割ぐらいが農業だった。子供は労働力であり、先祖から受け継いだ土地を守る後継者でもあった。
それが子供は現在、贅沢(ぜいたく)財だ。消費財でもなく、一歩進んで贅沢財だ。子供を育てるのは楽しいから育てるとか、そういうものになってしまった。
だから若い非正規雇用のような女性にとって、贅沢な子供を持つのは、ダイヤモンドの指輪を買うのと同じような大変なことになった。だから最初から買わない、やらないというふうになった。
そうした多産多死から少産少死の道をたどっていないのがアフリカだ。
多産少死の時には人口ボーナスが起きる。余計に産んだ子供が死なないから、その分、ものすごい労働力となるので、日本の経済成長もそうだけれど、その時に経済成長率がぐんと上がる。
人口ボーナスの対極にあるのが、人口オーナスだ。少産少死から少産極少死になると、オーナスで労働力人口が減少し働く世代が引退世代を支える社会保障制度の維持が困難になる。 日本では、少子高齢化が顕著になってきた1990年ごろから人口オーナス期に入ったとされる。
メモ とめどなく言葉を紡ぎ出す大泉さんにインタビューして、池と泉の違いを考えさせられた。ただ水をためているだけの池とは違って、あふれ出る湧き水があるのが泉だ。「知恵の泉」と言う言葉があるが、大泉さんにふさわしい言葉だ。思わず「もう一度、国政に戻ったら」と提案したが「二度とやらない」との返事が返ってきた。