
厚生労働省は2月下旬、2023年の国内の出生数(速報値)が過去最少の75万8631人だったと発表。8年連続で過去最少となり、少子化は想定を上回るスピードで進んでいる。「元祖少子化課長」の大泉博子元衆議院議員に、急務であると同時に息の長い取り組みが必要な少子化問題を聞いた。(聞き手=池永達夫)
――出生数は22年に80万人を切り、昨年は75万8000人余。このまま底抜けするのではとの懸念も出てくるほど出生数の落ち込みが早い。
出生数は16年に100万人を、19年には90万人を切った。さらに22年には80万人を切った。
これは世界的にも出生率が落ちた新型コロナの影響もある。先進国の中では高かった米国すら落ちている。
日本のコロナ禍では、お産する人の付き添いも、立ち合いも許されなかった。だから結婚控え、子供控えをしてしまった。それが22、23年の数字だと思う。
だが出生数の落ち込みは、コロナの影響だけではない。実質的にコロナが日本で始まったのは20年だから、21年ぐらいまではコロナ以前の問題があった。22年、23年はコロナの影響を受けたと言ってよい。
15年まで出生数は100万人あったが、16年以降は毎年3・7%減っている。コロナの影響を受けた22、23年は特別で5%くらい減っているが、社人研(社会保障・人口問題研究所)の中位推計では、70万人台になるのは30年と予想していたから、8年も早まったことになる。
100万人台を維持していた時代には、既婚者の出生率というのは減らなかった。
だが結婚数が減り少子化になった。だから結婚させなければという考えが中心になっていった。
この頃から少子化問題の指摘はパターン化している。
経済学者は、口をそろえて非正規雇用をやめろと言う。
社会学者は結婚観と家族観が変わったから、この変革をしていこうとキャンペーンを張ろうとする。
福祉学者は政府の尻馬に乗って、保育所増設を言っていた。
――本当の核心的課題は何か。
大事なのは若い世代が夢を持てるようにすることだ。既婚者であろうと、独身者であろうと関係なくだ。結婚する前から、自分は二極化の下の層なのだから、子供を持つなんて贅沢(ぜいたく)はできないというところにとどまってしまう若者が少なからずいる。初めから産むのをやめてしまっている。
ここに夢を持たせない限り、いろんな政策を打っても「暖簾(のれん)に腕押し」で実効性が乏しくなる。
安倍晋三元首相のトリクルダウンじゃないけど、所得はある程度なければ夢は持てない。
子供を持ったから、結果的に金をくれる児童手当じゃダメだ。
児童手当が第3子から3万円になったからといってそのくらいの額では、じゃ第3子を産みましょうとか、高校生までの給付になったから産みましょうとか、結婚しましょうとはならない。
若者の経済事情を根本的に変えない限り、今まで通りだ。
政府も選挙に一番効くのは現金給付だから、児童手当を政策にしてきた。
そういうことの繰り返しで、30年近くたったのが現実だ。
昨年、こども家庭庁ができてそのスローガンが、「こどもまんなか」だったのだが、やるべきは若者真ん中だ。
――具体的には。
子供が生まれて最も重要なのは教育だ。教育の過程で若者はすでに夢を失っている。
少子化で子供をプチブルにするための受験教育が中心となった教育制度を、ダイナミックな人間を育てる制度に変えていく必要がある。
大学進学率は50%以上と今では義務教育みたいなものだ。それで入り口ばっかり広げて、800校も4年制大学がある。だが出口でいえば、昔の高卒、中卒の仕事が大卒の仕事になってしまっている。
これじゃ教育させても、夢がない。しかも多くの人は、卒業する時、奨学金返済という借金を背負っている。それも平均で300万円から400万円だ。
最初にもらう手取り給与15万円、それで数百万円のお金を返すのは大変だ。
そうした教育制度と社会を改めないといけない。長年、少子化問題は児童政策ということで文科省が逃げたから、今後は、少子化問題と教育制度をセットにしないといけない。
まず出口のところで、一括採用をやめないとダメだ。若い人を優先的に五月雨(さみだれ)式にでも、常に雇えるようにする。これが民間でやれることだ。
――日本商工会議所前会頭の三村明夫氏を議長とした民間有識者による「人口戦略会議」のリポートが1月に出たが、評価は。
通り一遍の論文でしかない。企業の内部留保を出しましょうとか、民間からはこれだけの金を出してみせますという、それがない。また一括採用をやめて、余っている若者たちを優先的に雇うとの文言もない。何で自分たちがやらなければならないことが抜け落ち、自分たちが負担しなければならないことが提言の中に入っていないのか疑問に思う。
大学では同世代の6割、専門学校を合わせれば8割ぐらいは高等教育を受ける社会になっている。
この教育制度の中にいる間に、日本人として夢を持てるようにすべきだ。夢を持てば自分の家庭を持つことにつながっていく。夢がないから自分一人で人生を終わってしまいがちだ。
その意味では少子化政策は、基本的に文科省がやるべきだと思う。もちろん経産省もあるけど、ずっと経済政策は失敗しているから、文科省の出口に合わせるなどする必要がある。文科省の改革に合わせて経済界が動く。少子化問題を厚労省やこども家庭庁から文科省に早く移してほしい。
【メモ】一つ言葉を投げ掛けると、小石が水紋を広げていくようによどみなく、しかも際限もなく言論が紡がれ続けていく。大泉博子氏なる人物の頭脳は、それこそ知恵が詰まった〝大きな泉〟そのものだとインタビューして実感した。しかも侠気(おとこぎ)もある。「昔の高卒、中卒の仕事が大卒の仕事になっている」ことを嘆いた後、「必要なら老人のわれわれが、代わりにコンビニでアルバイトすればいい」と述べた。
「元祖少子化課長」というのは、政府としては初めてとなる子育て支援のための「第1次エンゼルプラン」が策定された時、厚生省の児童家庭局家庭福祉課長としてその策定に携わったことによる。