中国の急速な軍拡によって台湾海峡の危機が高まる中、中国が設定した軍事的ライン「第1列島線」に共に位置する日本と台湾は運命共同体ともいえ、協力の必要性は一段と増している。日台が今後どのように関係を強化し、東アジアの平和と安定に貢献するべきか。台湾研究の第一人者である浅野和生・平成国際大学副学長に聞いた。(聞き手・村松澄恵)
――台湾に対する日本政府の立場はどのようなものか。
日本と中国が1972年に締結した日中共同声明では、中国側が台湾を「中国の不可分の一部」だと主張したのに対して、日本側はそれを「十分に理解し、尊重する」にとどめた。これは「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認」したが、台湾が中華人民共和国に包摂されるとは認めていないということだ。
林芳正官房長官は1月、「台湾はわが国にとって基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーであり、大切な友人」と述べた。日本にとって台湾が重要であることは政府も認識している。
日中共同声明の文言からすれば本来、台湾を何らかの形で認めて平和的関係の構築を目指す「日台関係基本法」などを作ることはできるはずだ。しかし、日本政府は中国の怒りを買うことを恐れてできていない。
――正式な外交関係がない中、日台は安全保障面において、どのように関係を深めていくべきか。
日本は台湾を国として扱っていないため、大使館を相互に設置することはできない。その代わり、台湾の窓口として日本には「台湾日本関係協会」、日本の窓口として台湾には「日本台湾交流協会」がある。それぞれ形は民間団体として、日台交流や相互関係の維持などの実務的な業務を担っている。
この二つの組織間で安全保障問題を含めて、日本政府と台湾が情報を共有し、協力するという取り決めを行ったらいいのではないか。
外務省と防衛省は2022年4月13日の衆議院外務委員会と、昨年2月6日の衆議院予算委員会での政府答弁で、それぞれが所管する法令の中で、「特定の相手との間で情報共有を行うことを禁止するものはない」とした。
これは、日台間で安全保障について協定を結び、情報を共有し、協力することは、やろうと思えばできるということだ。
――民間団体同士の協定が国のルールに反映された事例はあるか。
過去の事例からすると、2007年から台湾の運転免許証が日本でも使用できるようになった。これは日本台湾交流協会と台湾日本関係協会が民間覚書を交わしたからだ。
この民間取り決めが行われたことによって、日本と同レベルの運転免許の管理が行われている国または地域であれば、運転できる資格として認めるようになった。つまり、民間協定に基づいて、政令が変更されたということだ。
他にも、税関での協力や税金に関する取り決めなども結ばれている。合意事項を法令に反映させているのだから、これは外交だ。
常識的には、国が行うはずの内容が二つの民間窓口機関の合意で既に行われている。であれば、有事の際に必要な国民保護のための協力など、台湾と安全保障上必要となる情報共有の民間取り決めはできるはずだ。