――日本政府が東京地裁に世界平和統一家庭連合(旧統一教会、家庭連合)に対する解散命令を請求したことは、安倍晋三元首相を暗殺したテロリストの要求をのんだ形になったと言えないか。
安倍氏に向けられた憎しみが、社会を巻き込んだ感情のうねりとなって家庭連合とその信者に向かった。日本社会は「テロリスト」の狙いのままに反応した。
<前回>「20世紀最大の人権侵害だ」家庭連合信者に対する拉致監禁 サンパウロ州報道協会会長 セルジオ・ヘドー氏に聞く(上)
安倍氏が家庭連合の関連団体にビデオメッセージを送ったことが、家庭連合との友好関係を想起させたと言われている。しかし、政教分離が憲法で定められているブラジルにおいても、政治家が宗教団体の大会に赴いて、あいさつをすることは当たり前のように行われており合法だ。国家が特定の宗教を迫害する方が政教分離に反していないか。
安倍氏が、メディアや世論の厳しい批判を受けなければならないほど家庭連合と非常に近い関係にあったという根拠は、検証によって裏付けされた確かなものなのだろうか。日本の社会はいま一度、テロリストの憎しみが社会全体にもたらしたものを冷静になって見詰め、再検証する必要があるのではないだろうか。
――本来、メディアには政府の暴走を抑える役割があるのでは。
テレビや新聞、ラジオ、ネットメディアなど、すべてのメディアの目的は情報を伝えることだ。そして、メディア関係者には、社会に向けて真実を伝え、プロとしてその報道内容に責任を持つ職業倫理が求められる。その責任から「権力の監視」を行い、真実を伝えるプロフェッショナリズムに基づいた報道を行うことを願う。
――国会で家庭連合信者の立場は無視され、礼拝施設など信者のよりどころを無くす政府の解散命令請求への批判はまったくなかった。戦前の全体主義に似た状況との指摘もある。
日本と同様にブラジルにおいても、信教の自由とその権利は憲法によって保障されている。当然のことながら、個人の基本的権利として認められているものを抑圧することは、権利に対する蹂躙(じゅうりん)で憲法違反だ。
イタリアで第2次世界大戦後に起きたネオファシズムのような全体主義への扉を開かないようにしてほしい。日本政府と裁判所には、家庭連合の現役信者などからもしっかりと意見を聞き、解散命令以外の可能性を探ってほしい。裁判所の判決は、日本社会に向けた提言にもなるだろう。日本は決して自由が奪われた「暗黒の時代」に足を踏み入れてはならない。
報道と弁護士業に関わる者として、家庭連合が解散させられるすべての可能性に反対したいと考えている。信教の自由と言論の自由、結社や政治活動の自由などを制限し禁止することはあってはならない。
――日本における信教の自由の侵害は、日本から海外へと波及する可能性を秘めているか。
もちろんそうだ。日本の政治家によって行われている信教の自由に対する攻撃は、世界中に「連鎖反応」となって瞬く間に広がるだろう。ブラジルもその影響を受ける国の一つになることは疑いがない。
世界の尊敬を集める日本だが、刑事的処罰を受けていない宗教団体に対して解散命令を出そうという今の日本の立場は、常識かつ倫理的に考えても正しいものだとは思えない。
また、家庭連合を解散させようとする動きの背景には、イデオロギー的なものも感じる。国家の分裂や紛争、戦争の多くがイデオロギーから始まっていることを忘れてはならない。家庭連合に対する迫害の背後には、共産主義のイデオロギーがある。保守を名乗る人々にとって特に深刻な問題だと受け止める必要がある。有志が集まり、家庭連合の解散に反対する民主主義的な反対活動を行うべきだ。(聞き手=サンパウロ・綾村 悟)