派閥解散は時代の流れ 規正法の連座制は議論重ねよ 政治評論家 田村重信氏に聞く

衆院本会議で答弁する岸田文雄首相=2023年10月24日、国会内

1月26日に召集された通常国会は、自民党派閥のパーティー券不記載事件を受け、岸田文雄首相の施政方針演説の前に予算委員会が開かれる異例のスタートとなった。それに先立ち、自民党政治刷新本部は派閥は「お金」と「人事」から決別するとうたった改革刷新案「中間とりまとめ」を発表したが、31日に始まった代表質問では野党から不記載問題の追及が止(や)まない。党改革案の評価と岸田政権の今後の見通しについて政治評論家の田村重信氏に聞いた。(聞き手・豊田 剛)

――自民党政治刷新本部が1月25日、「中間とりまとめ」を公表した。評価は。

派閥から「政策集団」に生まれ変わるために、「『お金』と『人事』から完全に決別する」としたことに一定の評価はできる。実行可能性もあると考えてもいい。

安倍派の政治資金の不記載問題が事の発端だ。それが裏金疑惑となり、二階派、岸田派へ飛び火した。派閥解散に向かうことは仕方がない。

 たむら・しげのぶ 昭和28年新潟県生まれ。拓殖大学政経学部卒。宏池会(大平正芳事務所)を経て、自民党本部に勤務。政務調査会で調査役・審議役として外交・国防・憲法・安全保障等を担当。退職後、政治評論家。

――政治資金規正法に連座制は導入すべきか。

ここが一番難しいところだ。政治資金規正法の第25条は、「政治団体の代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠ったときは50万円以下の罰金に処する」と規定していて、十分厳しいものだ。公職選挙法の連座制とこれらを同等にしていいかどうかは、相当、与野党で議論しないといけない。

選挙で選ばれた国会議員が、会計責任者との連座制にした場合、何が起きるか、よく考えないといけない。自民党の森山裕総務会長は1月30日の記者会見で「(適用の)要件を明確にしておくことが大事」で、会計責任者が故意に不正をする可能性もあると指摘した。万が一、外国勢力などの干渉があったらどうするのか。

――派閥を解消することで党本部に権力が集中する懸念はないか。

党本部の権力の集中は、中選挙区制から小選挙区に選挙制度が変わったことで、派閥の力が弱くなったことから来ている。

ただ、総裁選と人事に一定の影響を与えていた。それが、派閥の力が弱くなることで、人事面で派閥推薦の年功序列の順送り人事がなくなるなど、真に有能な人材が抜擢(ばってき)されることにもつながるという長所もある。

――今回の事件の本質は、政治資金収支報告書不記載であって、派閥そのものが悪ではない。岸田氏が、67年の歴史がある「宏池会」の解散を決めたことの是非は。

これは時代の変化だ。宏池会は、大蔵省(現財務省)などの官僚出身者の派閥で「お公家集団」と言われ、下村治、高橋亀吉などが1週間に1度、宏池会事務所に集まって、財政・経済の研究をしていた。そこから、池田勇人総理の「所得倍増計画」などの政策が生まれた。

その後、大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一と歴代首相を輩出する中で、土曜研究会では政策提言を求められた。しかし、過去の宏池会と違い、今は政策集団としての役割が薄まった。それが肌感覚としてあったから岸田総理は解散できたのだ。

――茂木派は派閥から「脱皮する」という表現で政策集団としての機能を維持させ、麻生派は解散しないことを選択した。

麻生派は、麻生太郎副総裁が自らつくった派閥で、思い入れが強い。また、高齢であるため、派閥がなくなると影響力が激減する。

茂木派は、茂木敏充幹事長が次期総裁・総理を目指すことから、総裁選を有利に戦うためには、何としても、総裁選に立候補するための基盤となる組織を維持したい。総裁選に立候補するのは20人の推薦が必要だ。

ただ、茂木派からは小渕優子選対委員長、青木一彦参院議員ら退会者が続出、空中分解状態にある。政策集団にするだけでも大変だ。このままでは両派とも守旧派としての批判が強まるだろう。

――自民党執行部から安倍派幹部の責任を問う声が上がっている。

今回の一番大きな問題は安倍派だ。安倍派から3人の国会議員が逮捕・起訴され、会計責任者も起訴された。幹部が何のおとがめもないのはおかしいというのは、国民の当たり前の意見だ。民間や他の組織では、不祥事が起きるとそのトップにある者は責任を取るものだ。

安倍派は、安倍氏の亡き後、5人が集団指導体制を取り、塩谷立氏が座長を務める。少なくともこのうち誰かが責任を取らないと収まらないだろう。

――岸田政権の支持率が低迷し、岸田氏に辞任を求める声もある。岸田氏は9月の党総裁選に出るか。

今の支持率では到底再選できない。いつか退陣するという気持ちで、派閥解消をどこよりも先にぶち上げた。人間、捨て身になると強さを発揮するもの。

岸田首相は、4月10日に国賓として米国を訪問するまでは辞めないだろう。今年9月の自民党総裁選の任期満了まではやるのではないか。

――解散総選挙の見通しは。

「政界一寸先は闇」と言われるように政界は何が起きるか分からない。ただ野党の支持率が軒並み低過ぎる。この現状では政権交代はない。

それから4月28日の衆院補選の結果が大きな指標となる。中間取りまとめと派閥解散がある程度評価され、政権と自民党の支持率が上昇の兆しを見せている。岸田首相が今後、党役員・内閣改造して支持率が上がるのか、あるいは、9月の自民党総裁選後のタイミングを見極めることになるだろう。

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