【持論時論】「武器よさらば」で平和が訪れたことはない 政治評論家 高藤和昭氏に聞く

安全保障は掛け算の世界

民意に武力、リーダーの資質に同盟 一つでも欠ければ抑止力ゼロに

わが国の隣国にはウクライナに武力侵攻したロシアだけでなく、台湾への野心を放棄しない中国や核兵器開発に余念がない北朝鮮などが存在し、安全保障問題が叢雲(むらくも)のように湧き上がっている。東アジアの安全保障をどう担保するのかというのは、わが国の最も大きな政治課題の一つだ。政治評論家の高藤和昭氏に、その核心を聞いた。(聞き手=池永達夫)

たかとう・かずあき 1946年11月25日、広島県賀茂郡生まれ。広島大学政経学部に学ぶ。同郷の政治家・谷川和穂(かずお)元法相、元防衛庁長官の秘書として政治的薫陶を受ける。政治塾「葛啓塾」塾長。

――今の時代をどう捉えているのか。

ソ連崩壊後、一強多弱時代に入った。パックスアメリカーナの時代だ。

だが、その米国の力が低下、オバマ元大統領は「世界の警察官をやめる」と言いだした。以後、中国やロシア、北朝鮮、タリバン、イランなどがうごめくことになる。世界の安全保障というのは「武器よさらば」で平和になった時代は一回もない。すべてパックスロマーナ、パックスアメリカーナと一強多弱なんだ。

――一強を脅かす勢力が台頭する中、わが国が取るべき安全保障と外交方針は。

安保と外交はシーソーのようなものだ。対外的に仲良くうまくやれるときは、安保のハードルは低くなる。外交も安保も、付き合う相手の選択こそが肝要だ。

明治維新以降の外交で成功したのは、日英同盟の締結だろう。安倍晋三元首相の「自由で開かれたインド太平洋戦略」も評価される。

安倍元首相は、環太平洋連携協定(TPP)を仕上げ、トランプ前米大統領との信頼関係をベースに、自由や民主主義、法の支配といった基本的価値を共有する日米豪印4カ国の枠組みクアッドなど中国包囲網形成に動いた。英伊と組み次期戦闘機開発にも動いた。

日本の選択は、アングロサクソンと組む。それ以外の選択はない。

――ウクライナに侵攻したロシアが日本の隣国というだけでなく、中国の台湾への野心や北朝鮮の核問題など、東アジアの安全保障をどう担保するのか、わが国の政治課題の中でも最も大きな課題だ。

ウクライナ問題が起きた時、懸念されたのは第3次世界大戦の導火線になることと、ロシアが核を威嚇として持ち出し西側諸国を牽制(けんせい)したことだ。

さらに中東のイスラム過激派組織ハマスが動いた。ホップ、ステップに続くジャンプは、間違いなくアジアだ。

数字の話だが、2と3では大きく異なる。2というのは走っているときだけしか安定しない自転車操業となる。2では立たず、3で安定する。

第2次世界大戦を考えると、センター国を中心に3カ国がそろった。枢軸国の日独伊、連合国の英米仏の3カ国だった。

今回、ロシアがウクライナ侵攻に動いたことで、北朝鮮が支援に回り、中国もドローンを送っている。その3カ国が固まってきた。

民主政権側はどうかというと、韓国が文(ムン)在寅(ジェイン)政権だったら、バラバラなままだった。

尹(ユン)錫悦(ソンニョル)大統領になったから何とか固まりつつあるが、問題は米国だ。米国がどの程度、リーダーシップを発揮できるかに懸かっている。

安全保障は掛け算の世界だ。

国民の意識と武器や情報通信、兵員の数と質、それに同盟とリーダーの資質。これらの掛け算が安全保障を担保することになる。一つでもゼロがあれば、全体の抑止力はゼロになる。

完全な抑止力を担保するには、すべてが80%以上でないといけないが、そうあるのは米国だけだろう。

――だが、その米国が頼りない。

中国に関しては、トランプ前大統領のデカップリングは正解だった。

なぜソ連が崩壊したかというと、西側とリンクがなくほぼ孤立状態でレーガン米大統領時代、サウジアラビアにどんどん石油を掘らせた。ソ連は、原油価格が下落して経済がどうにもならなくなった。そういう状態でゴルバチョフ大統領が登場してきた。この3点セットで、歴史は大きく動いた。

今、中国を追い込みたいのだけれど、バイデン米大統領の対中姿勢は弱い。

この点が簡単にいかない悩ましいところだ。

トランプ前大統領は、ドイツのメルケル前首相とは合わなかった。理由の一つは、トランプ氏が要求したGDP(国内総生産)比2%まで防衛費アップだった。

ところがウクライナにロシアが侵攻するなり、欧州は防衛費を2%にしている。

もう一つ、トランプ氏は、中国と手を切れと欧州に要求した。その二つで欧州とはうまくいかなかった。

今月にはイタリアが正式に、中国の「一帯一路」から手を引くなど、一時は中国にのみ込まれるやに思われた欧州も変わりつつある。

問題は民主主義陣営の柱たる米国だ。

――総選挙の展望は。

岸田さんでは総選挙は、戦えないと思う。解散できなかったら総裁選は、ほぼ無理だ。

今年は否(いや)が応でも、防衛費増額と子育て支援の財源に関して踏み込まないわけにはいかない。

超低空飛行で仮に支持率1桁になっても、辛抱してやり続けるのか。

それでは、解散という伝家の宝刀に手をかけた瞬間、岸田降ろしが始まることになりかねない。いずれにしても、永田町の一寸先は闇だ。


【メモ】 高藤氏が秘書として仕えた谷川和穂氏の選出選挙区であった旧広島2区は、大物議員がひしめく全国有数の激戦区。谷川氏も3度の落選を余儀なくされるが、その都度、次の選挙でカムバックを果たしている。高藤氏が谷川氏から受け継いだ政治遺産の一つは、最後まで諦めないその政治姿勢。多くの学友や知人が鬼籍に入るような年齢になっても、なお政治塾「葛啓塾」の塾長として政治家を志す人々に支援を惜しまない。

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