「潜入 旧統一教会」著者 窪田順生氏インタビュー(7・終)教団は外部との対話必要 

――著書では、霊感商法や高額献金など世界平和統一家庭連合(旧統一教会)でトラブルが起きる原因についても触れている。

本では、教団への献金について、収入の「3分の1を目指す」と言って、家族から「ノアじいさん」(神からの啓示で、周囲からバカにされながら山頂に箱舟を造った旧約聖書に出てくる人物)と呼ばれる信仰熱心な信者についても書いた。

<前回>「潜入 旧統一教会」著者 窪田順生氏インタビュー(6)「令和の非国民」となった信者

家族にはあきれられていたが、本人の目はキラキラ輝いている。その信者も過去には拉致監禁(強制棄教)の被害を受けて、タイに身を潜めたことがあったが、今は(監禁した)父親と仲良くなっている。安倍晋三元首相銃撃事件後も、近所を回って布教を続けている。全然へこたれていない。

それはそれで信仰に生きる者として非常に尊いし美しい姿で、本人は幸せだろう。しかし、もしかしたら周囲から〝狂人〟扱いされ、家族にもそれを嫌がる人がいるかもしれない。そこが難しい。

会見した世界平和統一家庭連合の田中富広会長􀀀7日、東京都渋谷区(石井孝秀撮影)
会見した世界平和統一家庭連合の田中富広会長=7日、東京都渋谷区(石井孝秀撮影)

そのことを田中富廣会長と話した時、会長は社会の価値観と異なる価値観がないのでは、宗教の意味がない、と言った。それを聞いて、本当にそうだな、と思った。「コンプライアンス」と言っても〝株式会社家庭連合〟ではないのだから信仰に向かう姿勢に過度に制限やブレーキをかける必要はない。しかし、個人の問題とは別に、社会から〝オール信者〟と見られるから、難しい舵(かじ)取りをしなければいけない。私もまだ良い答えを見つけていないが、どうやって(信仰と社会生活との)バランスを取っていくのか。信者1人ひとりに考えてもらうしかないだろう。

――そこで課題となるのは、教団の閉鎖性の打破だろう。

「フィードバック」という言葉がある。マネジメントで知られるドラッカーは、外の世界から情報を得て、それを自分たちで学習しなさいと言った。彼はナチスを取材し、組織がなぜファシズムになるのかを研究した。そこで得た結論は、フィードバックがないとマネジメントが効かなくなり、全体主義になるということだった。

逆に言えば、フィードバックが全体主義に陥るのを避け、イノベーションを起こす。旧統一教会も内部で信者たちが議論し合うのもいいが、それプラス、外部とつながり対話を続けると、大分違ってくるはず。残念ながら、今まではそれが弱かったのかな、と思う。

今回、信仰のないメディアの人間が内部に入らせてもらい、そこで気付いたこと、感じたことを、本を通じて伝える。それを材料に信者の皆さんも議論して、私以外の外部の人間とも対話を重ねていく。これは最高のフィードバックだろう。

――教団幹部が普段から、メディア側の人間と定期的に懇談していれば、安倍氏銃撃事件が起きても、状況は違っていたのではないか。

どんな組織でも、メディア対応に力を入れている。そうすると、メディアの人間から理解者やファンが出てきて情報発信してくれる。旧統一教会の場合は、謎のベールに包まれた状態で、取材しないメディアの人間に恐れられ叩(たた)かれている。事件が起きる前に、もっとフィードバックできていれば、今の状況がおかしいと声を上げる記者はもっと存在しただろう。

――〝潜入取材〟した結果、旧統一教会は解散させるべき教団に見えたか。

断然、解散命令を出してはいけないと考える。一つには、すでに指摘したように、日本全体のことを考えると、悪しき前例を作り、ファシズムの第一歩になってしまうからだ。

記者会見の冒頭で、おわびする世界平和統一家 庭連合の田中富広会長(左)ら=7日午後、東 京都渋谷区(辻本奈緒子撮影)

もう一つは、解散させられるようなことは何もしていないと思うからだ。問題があり、被害者がいるからというが、問題や被害者の対応をするためにも、教団が存続し続けなければ意味がない。教団を追及している弁護士やジャーナリストがいるのだから、彼らの厳しい監視の下で宗教団体としての改革を進めればいいだけの話だ。

教義を心から信じる信者がいるのに、その教団を潰(つぶ)してしまうことにどんなメリットがあるというのか。信者は全員被害者で、教団という器を壊してしまえば「マインドコントロール」から解放されるという弁護士らのロジックだ。しかし、普通に考えれば、信者は信仰を持つ人なのに、教団を解散させれば救済されるという話はあり得ない。改善の仕方はいくらでもある。社会も厳しい目で改善状況を見守るべきだ。それでも世の中を震撼させるようなことをやったら、考えればいい。(聞き手・森田清策)(終わり)

くぼた・まさき テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで200件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。新刊『潜入 旧統一教会 「解散命令請求」 取材NG最深部の全貌』が発売中。

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