
選挙イヤーの2024年。4月の韓国総選挙について同国世論調査分析の専門家、厳坰煐時代精神研究所所長に、今月13日に迫る台湾総統選挙・立法委員(国会議員)選挙について台湾情勢に詳しい浅野和生平成国際大学副学長に聞いた。
世界中から注目を集める台湾総統選挙が13日に投開票される。昨年11月、中国に融和的な最大野党・国民党と中道路線で若者から支持を集める第2野党・民衆党の野党連合が実現しなかった。その頃、国民党の支持率が与党・民進党に一時的に接近したが、民進党がリードし続けている。
過去の支持率のデータを分析すると、秋以降は世論調査の結果が平行線的になり、それ以降の支持率の変動が小さい。中国との何らかの衝突やアクシデントがない限り、情勢は変わらないだろう。
同時に行われる立法委員(国会議員に相当)選挙については、小選挙区では国民党の支持率が高い。ただ、民進党が激戦区を競り勝つところが出てくるという予想もあり、比例代表では接戦になりそうだ。民衆党や無所属の候補者も議席を得るだろうから、どこが第1党になっても過半数の57議席(立法委員は全113議席)を超えないと予想している。
国民党と民衆党は野党連合結成で一旦(いったん)は合意したものの、決裂した経緯を考えると、議会で民衆党が国民党に完全に同調するとは考えにくい。それぞれの政策で是々非々で対応すると考えらえる。少数政党でありながら、民衆党の存在感が大きい議会になるのではないか。与党は難しい政権運営を迫られるだろう。
国際評価上げた蔡総統
蔡英文総統の2期8年間は、外交、国防については非常に安定していた。米国からの信頼を勝ち得て、潜水艦製造での協力関係や武器の輸入などを行った。対中関係においては、独自のスタンスをしっかり保った。
また、「中華民国」ではなく、「台湾」を世界に押し出したことで、台湾問題の国際化に成功した。今では、G7サミット(先進7カ国首脳会議)の共同声明で「台湾海峡の平和と安定が国際社会の安全と繁栄のため不可欠である」と確認され、台湾の国際組織への「意味ある参加」も支持表明された。中国国内の問題ではなくなったという点において成功したと言える。
経済においても、昨年まではコロナ禍の中でも成長していた。特に半導体需要の高まりで、他国が輸出できなかった分を上手(うま)くカバーしていたように思う。昨年の後半から下がっている感じはあるが、基本的に大きな問題はなかった。
しかし、台湾では不動産の高騰が問題になっており、今回の総統選でも焦点の一つとなっている。この問題が解決していない点においては課題がある。
選挙に向けて、中国からの情報戦が強くなると考えられている。露骨だった2018年とは異なり、巧妙さを増している。
現代の軍事戦略はハイブリッド戦だ。インターネット上などの情報戦や現実の出来事でもって不安を煽(あお)る行為などが複合している。実際、民進党の議員が中国に対して厳しい発言をしたら、台湾の防空識別圏内に侵入する中国戦闘機が増えた。台湾では今回の選挙が「戦争か平和か」を選ぶ選挙になると考える人も多く、一定程度、影響しているのではないか。選挙結果に実際にどう影響したのかは事後検証する必要はある。
対日米関係に変化なし
民進党の頼氏が政権を取れば、外交において現在の蔡英文政権の方針を引き継ぐ。仮に、中国に融和的な国民党が政権を握った場合でも短期的には対日米関係に変化はないだろう。国民党政権だからといってすごく悪くはならない。武器購入の予算を通さないといったことも考えづらい。
実は、台中関係が緩和すると、日中関係はやりやすい部分がある。過去の国民党・馬英九政権時代の前半は、中国が胡錦濤・共産党元総書記だったという要素があるかもしれないが、日米中台のそれぞれの関係が良い時代だった。関係が良いと、中国が大々的に抗議をしなくなるため、良い取り決めをしやすい環境にはなる。
日本では、「台湾有事は日本有事」と言われるようになり、台湾海峡の問題が心配されている。ロシアを見れば分かるように、独裁国家は国際環境がどうであれ、やると決めたらやる大前提がある。民進党政権になろうと国民党政権になろうと、有事のリスクは予測できない。
ただ、中国による平和的統一圧力を国民党政権はあまり拒否しない可能性があるため、大きな目で見れば、何らかの危険に繋(つな)がる可能性を否定はできない。(談)
(聞き手=村松澄恵、豊田 剛)