
選挙イヤーの2024年。4月の韓国総選挙について同国世論調査分析の専門家、厳坰煐時代精神研究所所長に、今月13日に迫る台湾総統選挙・立法委員(国会議員)選挙について台湾情勢に詳しい浅野和生平成国際大学副学長に聞いた。
選挙を左右する要因は大きく分けて有権者の民心と投票動向の二つだ。
まず民心について見ると、過去の韓国総選挙は「政権審判か国政運営支持か」が重要なポイントになってきたが、ねじれ国会で180議席以上である野党陣営が各種法案を簡単に通過させてきたことが、国民の野党に対する心象を悪くしてきた側面がある。任期半ばに実施される総選挙ではあるが、政権審判論が強まるかどうか不透明だ。
それよりも今回の民心は「尹錫悦政権審判か巨大野党審判か」だろう。昨年10月、ソウル市江西区で実施された国会議員補欠選挙で最大野党「共に民主党」が大差で勝ったとはいえ、全体的に見ると巨大野党審判論がやや強いと思う。
仮に民主党が圧勝した場合、それ相応の理由がなかったとしても数の力で尹大統領の弾劾を無理やり進める可能性が高いが、果たして国民はそれを望むだろうか。だから野党牽制(けんせい)の心理が働くと思う。
投票率は50%台中盤か
次に投票動向を各種データに基づいて見てみたい。
まず投票率だが、前回の統一地方選(2022年6月)の投票率は50・9%で、その前の18年地方選(60・2%)からほぼ10ポイント落ちた。そのため総選挙も前回20年4月の総選挙で投票率66・2%だったところから10ポイントくらい落ちて50%台中盤になる可能性がある。
ここで注目したいのは、年齢層別の有権者構成比だ。韓国は出生率が極めて低く、一方で高齢化が進んで全有権者に占める60歳以上の割合が4月総選挙時に3人に1人の約32%になるとみられている。しかも60歳以上は、全有権者に占める割合より実際に投票した全投票人に占める割合の方が高くなる傾向があり、これはどの年齢層より際立っている。
前回の地方選について見ると、60歳以上は全有権者に占める割合が30・3%だったのに対し、全投票人に占める割合は10ポイントも増えて40・3%だった。40代・50代は38・1%から37・0%に微減。18歳から30代までは31・8%から逆に10ポイント近く下がった22・8%だった。
近年の投票傾向は保守系候補支持が「60代と20代・30代男性」、革新系候補支持が「40代・50代と20代・30代女性」と分かれている。結局、投票人の割合が有権者の割合以上に高くなる60歳以上の投票が左右し、保守が有利だということができる。
一昨年3月の大統領選では、保守系の尹錫悦候補と革新系の李在明候補が稀(まれ)に見る僅差の一騎打ちを演じたが、これは投票率が77・1%と過去2番目に高かったから。投票率が高いほど全有権者と全投票人の割合の格差が縮まり、60歳以上の影響力が限定的になるためだ。従って投票率が低いほど与党が有利になる。
もう一つ紹介したいのは世論調査機関・韓国ギャラップ(昨年3月)の調査。他のどの年齢層とも違って20代・30代男性は、尹大統領に対する支持が非常に否定的(20代で支持27%・不支持55%、30代で支持26%・不支持63%)なのに、政党別支持率で20代は国民の力35%、共に民主党16%、30代は国民の力32%、共に民主党30%と逆に与党支持の傾向だ。
20代・30代女性は大統領にも与党にも否定的だが、20代・30代男性は大統領に対しては否定的でも、与党に対しては肯定的。昨年11月の調査結果も似通っている。若者世代では大統領支持率の低さなどを根拠に野党有利という結論は導き出せない。
与党に分が悪い政治情勢
今の政治情勢は与党にとって多少分が悪い。政党支持率通りに投票するからと言っても、尹大統領の支持率が低いため、与党の支持率を引き上げるのが難しくなる。補欠選挙で負けた後に党革新委員会が党執行部と一時対立したり、20代・30代男性の代弁者とも言われる李俊錫・元代表が尹大統領を批判し、新党結成を宣言するなど内部に葛藤もあり、20代・30代男性の支持率傾向が揺れ動いている。
一方、民主党もいろいろ問題がある。李代表に対する各種不正疑惑の捜査が続いている。李氏は40代・50代の熱烈支持者たちを支持基盤にしているが、福祉や財政など韓国社会の持続可能性に関わる課題を回避し、民主党離反につながる構造的問題を抱えている。
韓国には地域感情の対立があるが、それを勘案して票読みをしても若干与党が有利。今すぐ選挙をしたら与党不利との見方も多いが、尹大統領の検察時代の後輩だった韓東勲・前法相を非常対策委員長にした新体制で弱点をカバーするなら与党は勝機を見いだせるかもしれない。(談)
(聞き手=ソウル・上田勇実)