【令和6年の日本を語る】政治資金規正法改正せよ 自民は支持されるリーダーを 政治評論家 田村重信氏

 必要な首相の説明する力

たむら・しげのぶ 昭和28年新潟県生まれ。拓殖大学政経学部卒。宏池会(大平正芳事務所)を経て、自民党本部に勤務。政務調査会で調査役・審議役として外交・国防・憲法・安全保障等を担当。退職後、政治評論家。
令和5年は自民党のパーティー券裏金問題などの影響で岸田内閣の支持率は急落した。自民党総裁選挙が予定される新しい年に日本はどうなるのか、あるいは、どうすべきなのか。政治評論家の田村重信氏、元航空幕僚長の田母神俊雄氏に語ってもらった。(聞き手・豊田 剛)

岸田首相は「新しい資本主義」や「異次元の少子化対策」という大きなスローガンを掲げているが、具体的な政策に乏しい。国民に分かりやすく説明する必要がある。今、岸田首相に必要なのは、きちんと話す力を付けることだ。政権スポークスマンである官房長官の仕事も大切で、昨年12月に就任した林芳正氏には特に、きちんと説明することを期待したい。

インバウンドは順調に増えている。治安が良く信頼ができる国民性なども相まってパフォーマンスはとても良い。ただ、物価高と円安が進む一方で、日本の給与は30年間上がっていない。こうした状況では政府の支持率は上がらない。

岸田政権の不支持が広がる影響で、中長期で経済をどうするかの理念を打ち出せずにいる。年末に決定した2024年度の与党税制改正大綱では、所得税の定額減税など一時的な軽減策を打ち出したが、大幅に膨らむ歳出に対する安定財源の議論は先送りした。防衛費の大幅増額分として27年度に1兆円を確保するための所得、法人、たばこ税の増税を25年に実施することも見送り、開始時期を決められなかった。子育て支援や社会保障の増額に対応する財源の論議も不十分だ。

改憲で米軍負担減へ

世界に目を向けると、昨年までウクライナとロシア、イスラエルとハマスの紛争が続いたが、いずれも今年中に収束するだろう。台湾有事の心配もあるが、それ以上に北朝鮮情勢が心配だ。日米韓首脳は昨年8月、米国キャンプ・デービッドで北朝鮮の弾道ミサイル発射の問題を話し合った。周辺で紛争が起きないようにするためには、どう抑止力を高め外交努力をしていくかが問われる。そのためには防衛力の強化と米軍との連携は欠かせない。

憲法上自衛隊は軍隊ではなく戦力でもない。防衛力の強化は現憲法下では限界がある。だからまず、憲法を改正して自衛隊を軍隊にしなければならない。そうしなければ、本当の意味で独立国になれない。米軍の駐留を減らして自衛隊を強化していくのが望ましい。

また、経済発展を考えると、中国、韓国、東南アジア諸国との交易を盛んにすることが重要だ。同時にロシアとの関係を改善し、グローバルサウス諸国との関係を良好にする必要がある。世界各国との経済協力を強化すれば、日本の経済は必ず上向く。

4月補選が正念場

昨年末からの自民党パーティー券問題が岸田政権の不支持に追い打ちをかけている。この問題で安倍派と二階派に検察の捜査が入った。結果、岸田首相に対する風当たりが強くなった。きちんとした対策を早く打ち出さなければならない。自民党は1993年に野党に転じたのをきっかけとして党改革本部を設置し、「党改革に関する緊急答申」を発表した。その後、その答申を受けて後藤田正晴元副総理を会長とする総裁直属の「党基本問題調査会」を再発足させて検討を行った。

政治とカネの問題を解決するには、首相は政治資金規正法の改正に手を着けるべきだ。また、使途の公表が不要な「政策活動費」をどうするのか、根本的な議論が必要だ。インボイス制度などで厳しく税金を監視する政治家に、どうして収入不記載が許されるのか。国民と感覚のズレがある。

派閥を解消すべきという議論があるが、自民党の派閥は中選挙区制の中で重要だった。選挙区で自民候補が複数人立候補する状況では、敵は自民党にあった。派閥は、領袖を総裁にするための組織でもある。総裁選に出るには20人の推薦人が必要で、派閥の長であれば、それを簡単に得られる。

一方、小選挙区制が導入されると、派閥の役割は薄まった。しかし、人間が多く集まればグループはできる。派閥を解消するのではなく、悪い面を排除し、良い面を大きくすればいい。

ただ、現在、派閥のリーダーはどれだけ国民から支持されているのか。現状は、無派閥の石破茂、小泉進次郎両衆院議員の人気が高い。人気のある議員をトップに据えた方が国民の支持を得やすい。

自民の支持率が下がれば、野党の支持率は上がるのが普通だが、今、野党各党の支持率は上がらないのはなぜか。一言でいえば、野党の責任だ。各党の代表はそれぞれが一歩引けばいい。ただ、自民に代わって立憲民主党や国民民主党の代表が首相になれるのか。次の首相にふさわしい人物の世論調査をしても名前すらない。そうであれば、野党の候補が各選挙区で予備投票をして候補を絞って大同団結をしたらいい。

政権支持率がここまで下がると、解散総選挙に打って出ようとしても思うようにいかない。当面の間は、岸田首相が政治とカネの問題を含め諸問題を処理して、国民の信頼を回復することだ。9月に総裁選があるが、その前の4月に衆院補選があり、自民にとっては正念場を迎える。新しい候補で総裁選を迎えることになるのか。

政治が悪いと投票率が低くなり、組織のあるところが有利になるものだが、国民一人一人が関心を持って選挙に行けば政治が変わる。

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