安倍晋三元首相銃撃事件以降、世界平和統一家庭連合(家庭連合=旧統一教会)に対する批判報道が続く。店頭には「旧統一教会」と冠した本が数多く並ぶが、批判本ばかり。そんな中、教団の実像や現役信者の声を伝える本が11月末、上梓(じょうし)された。「潜入 旧統一教会」。解散命令請求された教団の内部を、なぜ潜入ルポしたのか。著者のノンフィクションライター窪田順生氏に聞いた。(聞き手・森田清策)
――「潜入 旧統一教会」出版から約1カ月になる。
ありがたいことに、売れ行きは好調。アマゾンでは一時在庫切れで、慌てて再版をかけたほどだ。
――旧統一教会に関心を持ったのは。
きっかけは「国際勝共連合」(反共の政治団体で家庭連合と友好関係にある)だ。私は政治の世界も取材していたので、当然、勝共連合が自民党保守派政治家と長い間、一緒に活動していたことを知っていた。〝闇〟でもなんでもなかった。
安倍氏と旧統一教会との関係も、メディアの人間は「そんなのあるよね」という話だったし、教団批判を続ける鈴木エイト氏(ジャーナリスト)はネットなどでずっと追及していた。それが銃撃事件を境に「闇だ」と騒ぎ、さも「新事実」のように報じだしたことに強い違和感を覚えた。
ちまたに出ている情報があまりにも偏り過ぎていることを象徴するエピソードがある。私が書いた梶栗正義・勝共連合会長のインタビュー記事が昨年8月、プレジデント・オンラインに載った直後のことだ。
私はメディアの仕事が長いので新聞・テレビで働く知り合いが多い。その食事会の席に私が取材力などで尊敬している大手メディアの有名記者がいた。その先輩が「記事を見た。マインドコントロールして、あの教団はとんでもないぞ!」と言う。
「すごい詳しいですね。今まで先輩は旧統一教会をどれくらい取材したのですか」と質問したら、「鈴木エイトさんの本を読んだんだよ」と(笑)。そんなことかと驚いた。
――マスコミの報道が偏るのは、情報源が一つだから?
キャリアがあり、政治家の不正などを追及しているジャーナリストが自分で取材しないで、偏った本を手に取りそこに書いているから「とんでもない奴(やつ)らで許せない」と、正義の心が盛り上がっている。
一般人ならまだしも、取材もせず知り合いの信者もいないのに「あの教団は問題だ」と、判断しているメディアの人間があまりにも多い。すごい恐ろしいことだ。
オウム真理教の時は、スポークスマンの上祐史浩氏を取材したり、信者がテレビ出演したりして「あなた方の教義はおかしい」などと議論していた。今回に関しては、信者に会ったことも、見たこともないという人たちがみんなで叩(たた)いている。
では、どこが情報源かというと、被害を訴える人々の弁護をしている弁護士や鈴木エイト氏をはじめ一部の人たち5、6人が主張していることだ。だから「旧統一教会報道」と言いながら「被害者報道」になっている。この状況はフェアじゃなく異常なことだ。それに対して、本を書くことで一石を投じたいと思った。だから、メディアの偏向報道は、本の裏のテーマになっている。
本は、韓国の「聖地」取材のルポから始めている。その狙いは何かというと、鈴木エイト氏や宮根誠司氏(読売テレビ「ミヤネ屋」司会者)らが、教団施設を遠くから映しながら報じていた。もちろん、そこまでしか入れなかったのだろうが、あの光景はすごく象徴的だった。
霊感商法だ、マインドコントロールだというなら、元信者ではなく、現役信者に話を聞くべきなのに、外側から「ご覧ください、あの豪華な施設は」とやっている。現在のメディア報道は内部の人に話を聞いていないということを象徴的に描くため、聖地の内部をルポするところから本は始まっている。