疑義帯びる「家庭連合」解散請求 国際弁護士 中山達樹氏に聞く(上) 懸念される全体主義的暴走

結論ありきの「政治主導」

なかやま・たつき 1974年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒。2005年弁護士登録、10年シンガポール国立大学ロースクール修了。シンガポール法律事務所での国際弁護士を経て、15年中山国際法律事務所を開設。16年公認不正検査士、リー・クアンユー公共政策大学院修了。主な著書に『グローバル・ガバナンス・コンプライアンス』など。
文部科学省が世界平和統一家庭連合(家庭連合)の解散命令を東京地裁に請求したことについて教団側は憲法違反だと主張し、他の宗教団体や海外の人権団体からも懸念の声が上がっている。解散請求の要件に家庭連合は該当しないと訴える国際弁護士の中山達樹氏に、一連の政府の対応について聞いた。(聞き手=石井孝秀、岩城喜之)

――政府が出した家庭連合の解散命令請求をどう見るか。

盛山正仁文部科学大臣が10月12日に記者会見した際に出された解散請求に関する記者配布資料の内容には驚いた。特に「法人格は、不法行為ないし目的逸脱行為による財産獲得の受け皿」という強い表現を、公的な行政庁が使用した部分だ。

刑法違反がないのだから、論理的に考えれば「法令違反」に民法を含めないと解散命令は絶対出せない。そのため解散命令請求をするのであれば、民法を含めるしかないとの結論になったのだろう。その他の事情からすると、解散請求は結論ありきで出された「政治主導」と感じられる。

この処遇を行ったのは行政だが、裁判所も結論ありきで理屈は後付けになるケースは多い。行政も裁判所も常に杓子(しゃくし)定規に法律通り動くわけではない。世論に押されて結論を出すこともよくある。そのため、解散請求の可能性はゼロではないと思っていた。請求を出された以上は覚悟を持って受け止める必要がある。ただ、法律的な観点から見れば、解散請求の要件はそろっていない。

――憲法との兼ね合いから、解散命令請求や一連の政府の対応は妥当なのか。

解散請求をする上で法令違反に民法を含んだことや、質問権などの解散請求までの流れに大きな問題があった。

会社で考えれば分かるが、会社員が何か問題を起こしたとしても、すぐさま解雇されることはまずない。最初は就業規則に違反する旨を伝える警告書を渡すプロセスが最低2回はあり、それでも直らない場合に、はじめて解雇だ。これが適正な手続きだ。

経済分野を扱う株式会社ですら、会社法に基づく解散は「刑罰法令に触れる行為をした場合」で、法務大臣の警告に継続的に違反したときに限定されている。内心の問題、信教の自由を扱った宗教法人であれば、より慎重に解散のプロセスを進める必要がある。だが、そうなっていないアンバランスさに問題がある。宗教法人法は1951年に施行されたため、そうしたことを想定しておらず、法律自体に不備があると言える。

今後、ほかの宗教団体にもこの影響が出てくる可能性はあるが、私はどちらかというと日本社会全体に危機感を覚える。「カルト」「マインドコントロール」「ずぶずぶ」など、インパクトはあっても定義のあやふやな言葉だけが独り歩きして、深い理解もなく、そうした言葉を使って分断を生む雰囲気になっている。

通常の傷害事件ですら、人権保護のため、いきなり懲役や高額の罰金にならない。だが、教団には警告も立ち入り検査もなく、いきなり段階を超えて解散請求を突き付けられた。しかも聞き取り調査は「被害」を主張する側の声ばかりだ。

一部の偏見と無理解が国民意識に影響を与え、政治すら動かしてしまう状況は、民主主義国家として危惧しなければならない重大事態だ。

こうした全体主義的な暴走は単なる宗教問題にとどまるものではなく、日本人全体が背負う本質的な問題として向き合わなければならない。

<次回>「継続性」の明確な指摘なし 雲散霧消した「3要件」 疑義帯びる「家庭連合」解散請求(中)

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