地球を支える海の底力 海には河が存在する   海上保安大学校名誉教授 日當博喜氏に聞く

動脈に似ている黒潮 有機的な生命体を機能さす

生まれは太平洋に面した岩手県の三陸海岸、大学は海上保安大学校、職業は海上保安の現場と教職を勤め上げ、生涯を海と関わってきた海上保安大学校名誉教授の日當博喜氏に、「地球を支える海の底力」を聞いた。(聞き手=池永達夫)

――人類最初の宇宙飛行士ガガーリンは「地球は青かった」と、リポートしているが。青いのは海の色が反映されたものか。

地球表面積の約7割が海だから、宇宙から見れば地球は青く見える。ガガーリンは地球そのものを宇宙から見た最初の人となった。

地球は不思議な星で、本当に奇跡の星だ。

ひなた・ひろよし 岩手県出身。昭和50年3月、海上保安大学校卒業。広島大学大学院に学んだ後、同校講師。助教授を経て教授に。元副校長。日本尺八連盟大師範竹帥で竹号は「鶴山」。日本空手道連盟公認3段。

――具体的にどう奇跡なのか。

例えば、地球の南極にはNの磁極があり、北極にはSの磁極がある。だから磁石のN極は北の方位、S極は南の方位を示すように動く。

宇宙には生命体に有害な放射線が飛んでいるが、地球が一本の磁石となっていることで磁力線を張り放射線をはじき出している。

北極や南極に近い所では、磁力線の角度が垂直に近いから、放射線が大気圏に入り込みオーロラのカーテンが誕生する。また地軸が公転軌道に対して垂直ではなく、約23・4度傾いていることで、四季の変化もある。

――有機的で多様な生命体を生み出す器を感じる地球で、海というのはどういった存在なのか。

海には海水があるが、空中にも相当量の水分がある。

豪雨や台風でおびただしい雨が降るが、空中の水分量は13兆㌧。これを常時、空中に蓄えている。空中の水分は雨が降ってなくなるわけではなく、降っても降っても地表の水や海水は蒸発し、再び空気中に水蒸気は蓄えられる。

――うまく循環している。

そうだ。海は圧倒的に面積が広いから、海面からの蒸発が多い。台風を見れば分かるように、海上を通る間、たくさん水蒸気の補給を受けて大きく発達し、スーパー台風になる。

集中豪雨で降雨量が話題になるが、あれだけ降っても次々供給されるので、空中にある水分の量の何十倍も年間に降っている。地球には圧力鍋の蓋(ふた)みたいな仕組みがあって、大気や水分が地球から逃げていかない。そのからくりは感動する部分だ。

大気の対流圏というのは約1万㍍までの高さだ。ジャンボジェット機は対流圏の上空を飛ぶ。下は嵐でも飛んでいる所は平気だ。

――地球と宇宙の線引きは。

どこまでが地球なのか。どこからが宇宙なのかというと、大体、100㌔ぐらいまでが地球と見なそうということになっている。

その対流圏上空が成層圏、中間圏、熱圏と続く。国際航空連盟では、高度100㌔から上を宇宙と定義する。ただ明確な境がない。だんだん空気が薄くなっていくが、この層が相当厚い。これが多分、地球の空気環境を守っている。オゾン層の機能と並行して、大気そのものを漏れないようにするシステムがある。

水を見ると、海が圧倒的な量を誇る。川とか地下水などもあるが、地球にある水量143・4京㌧のうち陸地にある水量は3京㌧と少ない。一方、海水量は140・4京㌧。それでも日本海を立方体にした量でしかない。その海水の量と成分は、約20億年前から変わっていない。それ以後、地球の環境がつくられて生物が誕生するようになり、海を使って人類は経済活動をやってきた。

――船の発祥は。

丸木舟だと相当、古い時代からだ。木が浮くことが分かり、それに荷物を載せるとか、人間が乗って移動手段としたり漁とかやり始めた。

地中海辺りでは戦争に船を使い始める。ローマ帝国の時代は、そういう記録が残っている。

――船の発達はローマから。

そうだ。大きな帝国を造って、その領土を守り広げようとすると、ローマの場合、必須のものだった。ローマはイタリアを中心軸にした地中海沿いのほぼ全域に及び、物流や兵士、武器の移動に欠かすことのできないものだった。

――現役時代、印象に残った仕事は。

海上保安大学校を卒業して最初に配属された船が南方定点観測の船だった。南方定点は鹿児島の真東、高知の真南になる。統計的に台風が一番通る場所だ。動かないでじっとしたまま、観測を毎日やる。嵐になってもやる。

ラジオゾンデを気球に吊(つ)るして飛ばして、刻々電波で送られてくる上空の気圧、気温、湿度、風向、風速等を観測する。海中でもセンサーをつけて沈め、海水温度、塩分濃度を測る。

――塩分濃度は海の深度で違うのか。

塩分濃度は水深によってそれほど変化しない。水深が深い方が多少比重が大きい。ただ深くなれば溶存酸素量が減少するのと膨大な水圧がかかることで生物にとっては厳しい環境となる。

――海の浄化力はどう機能しているのか。

「母なる海」と言われ、豪雨や台風などでは陸地から汚濁物が大量に放出されるが、どんなに汚れても海は浄化するパワーを持っている。海の浄化力は塩水であることが大きい。

なお海水は時間や場所や深さで異なるが、対流や攪拌(かくはん)で動いている。

――ヒンドゥー教の天地創世神話「乳海撹拌」を彷彿(ほうふつ)させるが、海が有機的な機能を持ち続けている秘密のような気がする。

黒潮や千島海流は「海の河」とも言えるもので、海に河があるというのは面白い話だ。人体に大動脈や大静脈があり、血管、毛細血管があって、有機的な生命体を機能させているが、海自体にもそうした機能が見て取れる。

黒潮が果たしている役目は、動脈にも似て、栄養を運び魚を育てる。それ以外に、海水の攪拌をする。その黒潮の一部が瀬戸内海に入っただけで、海水温など瀬戸内の環境はガラッと変わる。

――ライフワークは。

台風そのものをなんとか制御できないか考えている。

海水の表面温度を少し下げるだけで、ある程度スーパー台風のパワーをそぎ落とすことが可能となる。海面からの蒸発量を加減できるかどうかの話だ。

ただゼロにする必要はない。海水と大気の攪拌をしている台風をなくしたら、「角を矯(た)めて牛を殺す」ことになりかねない。


<メモ>日當氏は物静かな人柄だが、ずばりとものを言う。知的思索を深めながらも、常に現実と照らし合わせてチェックしてきた蓄積が、その人となりを形成してきたように思う。その最後の仕事として腹に決めているのが、台風というのも驚きだった。海で嵐にもまれ、暮らしている広島で豪雨災害が多いことが、日當氏に「古希の宿題」を課したのかもしれない。

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