【特報】「私は引きこもりではない」 鈴木エイト氏を提訴した後藤徹氏 宗教脱会ビジネス再発を危惧

「引きこもり」。ジャーナリスト・鈴木エイト氏からテレビ番組でこう呼ばれた東京都在住の後藤徹氏(59)は、名誉毀損(きそん)で鈴木氏を訴える裁判を起こした。世界平和統一家庭連合(家庭連合=旧統一教会)の信者であるため、12年以上も閉じ込められて棄教を迫られた後藤氏は、「引きこもり」発言が大手メディアでまかり通ることで脱会ビジネスが再び活発化するのではないか、と危惧する。(宗教と政治取材班)
全 国 拉 致 監 禁 ・ 強 制 改 宗 被 害 者 の 会 代 表 の 後 藤 徹 氏 ( 石 井 孝 秀 撮 影 )

「人を閉じ込めることは犯罪だ。逮捕監禁罪。絶対にあってはならない」。後藤氏は強い口調で語った。

命の危険を感じるほどの極限状態まで続いた12年5カ月間の拉致監禁。安倍晋三元首相銃撃事件以降、メディアの教団批判が激しさを増す中で、旧統一教会ウオッチャーとしてテレビに登場した鈴木氏に「引きこもり」とされてしまう。

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「引きこもりでは断じてない」。後藤氏は10月4日に鈴木氏を東京地方裁判所に提訴した。

訴状によれば、鈴木氏はネットメディア『やや日刊カルト新聞』で2013年3月13日、「ニート化してただの“引きこもり”となった男性信者」と書いたのをはじめ、15年10月15日にも「12年間に及ぶ引きこもり生活」と書いた。22年8月12日には日本テレビ「情報ライブミヤネ屋」で、「もうほぼ引きこもりの状態」などとコメントした。

教団には高額献金に批判がある。文部科学省は10月13日午前、東京地方裁判所に家庭連合の宗教法人解散命令請求をした。取材班が後藤氏を取材したのは、同日昼すぎ。「脱会ビジネスが再発する予感はある」と語り、政府の請求がお墨付きになることと強い懸念を訴えた。

“脱会ビジネス”とは、信者の家族が信者を教団から脱会させるため、脱会専門活動家に高額の費用を払い、信者を一室に閉じ込めて棄教させることだが、費用には活動家の利益も含まれる。

「延々と閉じ込められると7割は脱会する」(後藤氏)。そして脱会を表明すると、その証拠として献金などの返金を求める訴訟を教団に対して起こさせる。和解ないし勝訴すれば和解金や返金が得られる。また、教団内で知り得た人の名簿を提出させ、その家族に“営業”をかけ、次の信者の拉致監禁を行う。

後藤氏は1995年9月11日に脱会活動家の支援を受けた家族らに拉致され、2008年2月10日まで監禁された。身長182㌢の後藤氏の体重は約50㌔までに減っていた。

解放された後、同じように拉致監禁された体験を持つ信者らが「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」を結成し、代表を務めている。

「私への拉致監禁と脱会強要が事実であり、違法であると最高裁判決が示した」。後藤氏は、自身を拘束した家族、キリスト教牧師、脱会活動家を相手に民事訴訟を起こし、2015年に最高裁で控訴審での勝訴判決が確定した。

後藤氏の勝訴で、拉致監禁を行う脱会ビジネスは下火に転じた。

だが、昨年来、教団解散にこだわる岸田政権の姿勢が「脱会」需要を高め、脱会ビジネス再燃の可能性が出てきた。

特に後藤氏が危惧しているのは、教団に反発する宗教2世たちの存在だ。「親の献金を取り返したいなどを理由に、成人した子供が親を監禁し脱会させるケースが起きてしまうかもしれない。例えば、2世たちが脱会カウンセラーなどの“専門家”に相談した際、信仰熱心な親を棄教させるには『拉致監禁しかない』と説得してくる可能性は否定できない」

昨年の臨時国会で制定された被害者救済法はマスコミで「旧統一教会問題被害者救済法」と呼ばれたが、実際は「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」だ。献金や喜捨、お布施は宗教行為であり、世俗的考えでは理解されにくい。脱会と返金を求める宗教脱会ビジネスが宗教界全体に波及する可能性もある。

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