先回は劣悪な環境でも、凛(りん)と生きる一輪の花に励まされた娘時代の話を伺った。バラ愛好家で看護師の岩崎幸子さんに、さらに栽培のポイントを聞いた。(聞き手=池永達夫)
――バラは植物としては始末に負えない。棘があって刺すし、放置するとすぐにはびこる。
バラとすれば、棘で自分の身を守っているのだから文句は言えない。
棘を飛ばして攻撃するようなことはなく、あくまで専守防衛型の平和志向者だ。
――棘のないバラもあるのか。
モッコウバラには棘がない。グンセイ、グンマイも棘がない。だがモッコウバラでも突如、棘が出てくることはある。
――どういうときに。
少し、老木にストレスがあったときに出てくる。いろいろ可能性を秘めている変幻自在性も面白い。
――剪定(せんてい)作業は。
剪定誘因がどれだけうまくできるかで、バラ育成の良し悪しは決まってくる。
四季咲きバラ、一季咲き、ツルバラ、型として木立性、開張性、枝垂れ性、匍匐性、さらに言えばバラの一個一個で剪定作業は異なる。
四季咲きは2月までに3分の2くらい、全部切ってしまう。それで、養分を分散させず強くていい芽を出すことができる。
古い枝は、細い小枝しか付かず花も大きくならない。だから剪定と肥料が大事になる。
春咲いた後の摘芯も欠かせない作業だ。秋バラを楽しみたかったら、さらに3分の1くらい切る。
春先、一番下からピューと出てくる枝がシュートという。個立ちのバラは、これをあまり切ると再生しない。
ツルバラはすごく伸びるものもあれば、毎年50㌢ずつ伸びていくものもある。そういうバラは、花のすぐ下を切っていく。旺盛なのは新しいシュートを残し、古い枝を切って新旧交代させる。その見極めが大事で、それをするかどうかは種類によって違ってくる。
――好きなバラは。
みさきというバラだ。これは日本人が作り出したバラだ。バラというと欧米の人々のイメージが強いが、日本人も新種のバラを作り出す能力は高く、英仏に負けず劣らず作出している。
――バラ栽培は手がかかる。虫の被害は。
バラ園を作っている私にとって、カミキリムシは天敵だ。
カミキリムシはバラに卵を産み付けると、茎の中で2年間成長する。だから、その被害は最初、分からない。だが、2年目になってカミキリムシが成長して飛び立つ時、あっと言う間に茎を食べ切ってしまうので、緑の茎が黄色に変色する。そして1週間で、あっという間に枯れてしまう。
バラは3、4年の茎が太くて活力に満ちている。カミキリムシは、その最盛期のバラの茎を台無しにする。
象みたいに長い鼻を持っているバラゾウムシも、バラの蕾(つぼみ)を吸い尽くし、蕾を全部枯らしてしまう。バラの花数がぐっと減る。一方、クモとかテントウムシといった、害虫を食べてくれる益虫もいる。敵の敵は味方といったバラ園の援軍となっている。
一方、葉の裏などで白い粒状になっているカイガラムシを駆除するには薬散布ではあまり効果がない。結局、ローテクの歯ブラシでごしごしとこすって駆除するしかないのが実情だ。
――それをやろうとすると、べらぼーな労力を要する。
バラは手間暇を惜しんでは、決して育てられない。
元来、バラ園というのは、基本的に何人も庭師が入ってやるものだ。
また、バラというのは肥料食いでもある。
――将来の構想は。
癒やされる庭。居心地のいい庭。新しい活力を与えてくれる庭作りを目指したい。
何がこの土地に適していて、共存できるかといった植栽もじっくり探らないといけない。
――昨年、自宅の庭で娘さんの結婚式をした。
私の知り合いが、英国のガーデンウエディングに招待された。
日本は祝い袋を包むが、向こうは新居で欲しいものをリクエストし、招待客がそれぞれプレゼントするものを決めていく。本当にこれが結婚式だなと感じた。
時はコロナ禍だし、娘からもガーデンウエディングのオファーがあった。
どうせ大勢は集まれない。それで親戚だけ集めるだけなら、30人ぐらいは入る庭なので、娘と2人でルンルンで計画した。
ちょうど娘がウエディング関係の仕事をしていて、カメラマンにへアメイク、全部知り合いのプロを呼ぶことができた。
食事は、近くのレストランからケータリングしてビュッフェ方式にした。
上司を呼ばないといけないとか社会的制約を離れ、末っ子の妹を司会役に仕立てたが、親しい親戚で盛り上がるパーティー形式の結婚式のスタイルはいいと思う。
私はテーブルコーディネーターとして、テーブルクロスと庭の花を使ったフラワーアレンジメントを担当した。机は事務机だが、テーブルクロスを張ると一変する。椅子だけは買い込んだ。
一番ドキドキしたのは天気だったが、好天に恵まれた。
――次は庭を貸し出して、オープンウエディングビジネスができる。
大いに宣伝して。
メモ 男はあちこち飛び回り冒険好きな人が少なからずいるが、基本的に女性に負ける。女性は結婚すると、育った家を離れ見ず知らずの世界に飛び込んでいく。とりわけ昔は、結婚相手の家に嫁いでいくケースが多かった。この女の冒険は、男がどれほど山や谷を越えても越すことのできない異次元の世界への旅だ。花も一度、種が地に根付くとそこで根を張り、葉を広げ花を咲かせる。劣悪な環境でも、不平をこぼしたり飛び出してしまうこともない。花好きの女性は多いが、共感する世界があるのだろう。