緊迫化する東アジアの安全保障環境について、ソウルを拠点に朝鮮半島・アジア情勢を長年ウオッチしている米紙ワシントン・タイムズのアンドリュー・サルモン・アジア支局長に聞いた。(聞き手=編集委員・早川俊行)
――北朝鮮とロシアが接近している。両国の思惑は。
ロシアには友人がいない。中国でさえ武器を供給していない。イランが無人機を提供しているが、ロシアを公式に支援している国はほとんどない。対して、ウクライナは西側各国から支援を受けている。
ロシアは助けを必要としており、北朝鮮に頼らざるを得ない。北朝鮮は国内総生産(GDP)の26%を国防費に充てる要塞(ようさい)国家であり、ロシア軍も使える弾薬を大量に備蓄している。
一方、北朝鮮は中国にすべてを依存していることを嫌がっている。私は2016年に北朝鮮を訪れた時、ツアーガイドでさえ、中国との関係はあまり良くないと言っていた。ロシアは北朝鮮が必要とする食糧と石油を提供でき、北朝鮮はロシアが必要とする武器を提供できる。物々交換になるかもしれない。
ただ、金正恩朝鮮労働党総書記が本当に欲しいのは衛星打ち上げ技術だろう。小型潜水艦用の原子炉も欲しがっているようだ。ロシアはインドに原潜技術を供与しており、可能性はある。
――北朝鮮がロシアの先端軍事技術を手に入れれば、日本など周辺国の脅威になるか。
日本や韓国は既に北朝鮮の脅威にさらされている。東京やソウルを攻撃するのに、ハイテク長距離兵器は必要ない。例えば、核兵器を積んだ小型潜水艦を嵐の闇夜に東京湾や釜山港に侵入させて核爆発を起こす。これは防ぐことができない。弾道ミサイルもミサイル防衛システムでは完全には防げない。つまり、北朝鮮に対して軍事的な防御策はないのだ。
――中国、ロシア、北朝鮮の連携は、東アジアの地政学にどのような影響を与えるか。
中露朝の3国間協力は始まったばかりで、まだどうなるか分からない。私の感覚では、中国はロシアほど3国間協力に積極的ではない。中露朝が協力し合うにはかなりの時間がかかるだろう。
2国間では中露が18年ごろから海空軍の協力を進めている。次の段階は露朝の協力だ。ただ、北朝鮮は弾道ミサイルや核兵器といった強力な兵器を持つ一方で、艦艇や戦闘機、潜水艦、レーダー、センサーは極めて古い。ロシアの最新システムと相互運用できるかは疑問だ。
日韓にとって憂慮すべきは、中国が北朝鮮の東海岸やロシアのウラジオストクに海軍基地を持つことだ。中国が黄海や南部地域だけでなく、朝鮮半島やロシアに海軍基地を持つことになれば、大きな一歩を踏み出すことになる。
――ウクライナに続き中東でも戦争が発生したことで、アジア太平洋地域における米軍の抑止力、即応力の低下が懸念されている。
イラク戦争では在韓米軍から歩兵旅団が引き抜かれ、そのまま帰ってこなかった。しかし、ウクライナ戦争では米兵は一人も戦っていない。イスラエルとハマスの戦闘でもそうだ。仮に東アジアで戦争が起きても、米軍は兵力の大半を投入できるだろう。