【持論時論】囃子、衣装、篝火…全部が魅力 西馬音内盆踊保存会会長 佐藤寛悦氏に聞く

お祭りでなく先祖への供養

後継者育成を重視 囃子方に新人4人デビュー

柔和な笑顔が印象的だ。佐藤寛悦さんは日本三大盆踊りの一つ、西馬音内(にしもない)盆踊りの保存会会長(5代目)である。平成17年に完成した盆踊り会館2階の広い和室で17日、踊りがスタートする前に話を聞いた。和室の先には、祭りの時期に組み上げた櫓(やぐら)が会場の通りに張り出している。やがて前触れの太鼓が鳴りだし、お囃子(はやし)が始まり、歌い手が「今宵(こよい)ひと夜は負けずに踊れオジャレ篝火(かがりび)消ゆるまで」などと美声で唄(うた)いだした。会長の「踊りは先祖の供養であり、お祭りではない」との言葉が心に残る。(聞き手=伊藤志郎)

さとう・かんえつ 昭和34年、西馬音内生まれ。小さい時から親に連れられ踊りの輪に。大学を出て会社勤めをしたのち25歳で家業(自営業)を継ぐ。令和2年、保存会会長と実行委員長が相次いで亡くなり、会長職(5代目)を務める。

――踊り手の指のしなり、回転する時の足さばきの音、そこに世情の風刺や哀調のある歌(地口(じぐち))が響く。以前に訪れた時、一人の女性の踊る姿が美しく、衝撃を受けました。

保存会は昭和22年にできた。伝統の保持・継承と後進の育成や全国での公演活動を担っている。会員は囃子方が38人で、うち女性は3人。踊り手は35人(うち男性は2人)。役員などを含めると76人ですが、3分の2以上が50歳すぎで、後継者育成には力を入れています。今年はお囃子に新人4人をデビューさせました。太鼓と笛がそれぞれ1人、地口が2人です。

毎月1回、保存会では町民そして町外の人向けの練習会を開いています。一般練習会にはどなたでも参加できます。また保育園や三つの小学校、羽後(うご)中学校、羽後高校にも教えに行っていて、それぞれ学校祭などでも披露します。

羽後中学校の盆踊りクラブでは、上手な子は本番の舞台で笛や太鼓の囃子方と踊りに参加します。あと羽後高校の郷土芸能部の3人は、公演や他の高校の依頼があれば私たちとジョイントすることもあります。

篝火がはぜる中、端縫衣装に編み笠や藍染浴衣に彦 三頭巾の踊り手が幽玄な踊りを見せる=8月7日、盆踊り会場

――踊りには「音頭」と「がんけ」の2種類があり、囃子には「寄せ太鼓」「音頭」「とり音頭」「がんけ」の四つの曲目があります。会長は囃子も踊りもできるわけですか。

いやいや、踊りだけです。私たちは小さい時から親に連れられて踊りの輪に入り、見よう見まねで踊る。リズム感的には自然と手足が動く。ある程度、大人になると、きちんとした踊りを練習します。

西馬音内盆踊りは今から700年以上前から始まったが、昭和10年、日本青年館主催の「第9回全国郷土舞踊民謡大会」に東北代表としての出場が決まり、初めて遠征した。それまでは地域の盆踊りだったが、遠征するとなれば踊りを統一しなければならない。

歌も、地口の文句は200ぐらいあるが、世相の風刺や余興的な歌詞を選び直し、衣装も端縫(はぬい)と編み笠、藍染(あいぞめ)浴衣と彦三(ひこさ)頭巾に統一し見栄えを良くした。太鼓と笛だけだった囃子方には三味線や鼓(つづみ)、鉦(かね)を加え躍動的にしました。

――改めて、会長にとって西馬音内盆踊りの魅力は。

囃子、衣装、編み笠、町の雰囲気、篝火…全部が魅力です。

会員によく言うんですが、先祖の供養で、盆の行事なので、お祭りでもなくフェスティバルでもない。先祖代々、自分たちがいるのは、先代のじいちゃん、ばあちゃん、親がいて自分がいて子供がいて孫がいて伝わっているので、そういうところを噛(か)みしめてお囃子や踊りを継承してほしい、見せ物じゃないからと言っています。もちろん、町の活性化にもなると思います。

――出演依頼が多いでしょう? 県内のイベントでもよく見ます。

正直に言ってたくさんあります。ただ商業的な催しには行かない。あくまで芸能、文化として出演するようにしています。

――会長になったいきさつは?

令和2年に、保存会会長と実行委員長が相次いでお亡くなりになった。8月の祭りを3日間運営する実行委員長には菅原政一さんがなり、私は保存会の5代目会長を務めています。

2年には東京五輪の閉会式でビデオ撮影ですが、日本の祭りの一つとして出演。昨年11月にはユネスコの無形文化遺産「風流踊(ふりゅうおどり)」の一つに選ばれました。

ただ新型コロナの流行で2年と3年はユーチューブで配信。去年は踊り手を地元、町外それぞれ100人とし、観客にはワクチン接種証明書を求めました。今年は5類に分類され、規制なしの開催でみんな喜んでいます。

今年1日目の踊り手は、夜7時半からの前半部が約320人、9時からの後半部が約380人でした。町内は4割です。町外が6割ですが、そこには地元で生まれて外にお嫁に行った人が含まれますから。


【メモ】人口約1万4千人の羽後町に、新型コロナが5類に移行したとはいえ今年は3日間で約6万人が訪れた。現在の踊りに洗練される過程で、日本舞踊の先生が地元の良さを織り込んだ振り付けをしたともいわれる。幾つもの盆踊愛好会の存在も大きい。羽後町も全面的に協力。盆踊り会館での毎月の定期公演のほか、踊りの衣装の展示やうご牛、そば、ジャズフェスティバル、そして冬の「ゆきとぴあ七曲」とイベントを企画。平成28年オープンの「道の駅うご」も充実し、一年を通して訪れる人を歓迎している。

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