【持論時論】内観法で自分発見―禅宗僧侶・公益財団法人喝破道場理事長 野田 大燈氏に聞く

人生観の劇的転換も 自分の生い立ち客観視 不登校児、不良少年らケア

瀬戸内海が眼下に広がる高松市の五色台に喝破道場を開き、不登校児や非行少年、引きこもりの学校・社会復帰に取り組んでいる曹洞宗「報四恩精舎」住職の野田大燈氏は、仏教から生まれた日本的な心理療法である内観法を取り入れた内観断食療法で、体と心の蘇(よみがえ)りを行い成果を上げている。その発想と実践を聞いた。

(聞き手=フリージャーナリスト・多田則明)

 のだ・だいとう 禅宗僧侶、公益財団法人喝破道場理事長。昭和21年香川県の生まれ。29歳で出家、大本山永平寺で修行。高松市・五色台に喝破道場を建て、不登校児たちと共同生活を始める。その後、曹洞宗の宗教法人「報四恩精舎」を設立し住職に。精神障害児短期治療施設若竹学園を開設した。サッカー日本代表元監督の岡田武史氏の心の師として知られる。著書は『子どもを変える禅道場』『平常心是道』など。

――内観断食療法を始めたきっかけは。

内観法(内観療法)の創始者は浄土真宗の僧侶で刑務所の教誨師(きょうかいし)としても活躍した吉本伊信(いしん)さんで、浄土真宗系の信仰集団に伝わる「身調べ」を一般人向けに改良したものです。身調べは、断食・断眠・断水をしながら自分の行為を振り返り、地獄行きの種と極楽行きの種のどちらが多いかを調べ、阿弥陀仏(あみだぶつ)の救済を確信するという厳しい修行でした。

吉本さんの内観法は、1週間静かな部屋にこもり、母親など自分と関わりの深い他者に対して自分がどうであったかを、三つの観点「してもらったこと」「してあげたこと」「心配や迷惑かけたこと」から思い出します。それを内観者(クライアント)は、1時間から2時間ごとに面接者(セラピスト)に告白し、面接者はその内容を傾聴することを繰り返すのです。つまり、面接者を鏡として自分の生い立ちを客観視することで、自分と周りとの関わりに気付いていく。

それによって、しばしば人生観、世界観の劇的な転換が起こり、心身の疾患が治癒していきます。長男を自死で亡くしたノンフィクション作家の柳田邦男さんも、家族内観療法により大きな価値観の転換を得たことを著書で語っています。

昭和30年代に教誨師になった吉本さんは、刑務所や少年院に宗教色を取り除いた内観法を実践して成果を上げ、昭和35年ごろには有力な矯正手法として全国の矯正施設で採用されるようになり、メディアにも取り上げられました。

道場に非行少年などを預かっていた私は関心を持ち、平成5年のころ奈良県大和郡山市にある大和内観研究所で、存命の吉本さんの内観法を体験しました。数人がそれぞれ個室に入り、上記のように記憶をひもといていき、時々訪ねてくる吉本さんに、今思い出していたことを話すのです。これは非行少年の更生に使えるのではないかと思いました。

当時、道場に非行に走った中学生の男子と母親が来ていたので内観法を実践してもらうと、子供を何とかしたい母親は真剣ですが、息子は乗り気でなく、食事をしては寝るだけでした。そこで、集中して自分を見詰めるために断食を取り入れたらいいと考えました。しかし、私が体験した7日間や10日間の断食では戻すのに同じくらいの日数がかかるので、体にそれほど影響のない3日間の断食にし、最低限の栄養は1日1箱のカロリーメイトと栄養ドリンクを取るようにしました。

内観法では思い出したことを面接者に語るのですが、私はそれを原稿用紙に書くようにしました。どうしたらいいか分からない中学生には、保育所に行った頃のことを思い出し、門から中に入り、庭や滑り台で遊んだことなどを書かせるのです。具体的なことを書いていくうちに、母親が送り迎えしてくれたことや、母の日には園で用意したカーネーションをあげたら母親が喜んだことなどを思い出していきます。そのうち、「してもらったこと」は多いのに、「してあげたこと」は少ないのに気付くのです。多くの子は、親などがしてくれて当たり前なので、忘れてしまっています。

1日目は保育所や幼稚園から小学校までのことを書かせます。受け持ちの先生や友達のこと、両親や祖父母がしてくれたこと、特に心配をかけたことなどです。2日目は中学校の頃のこと、3日目の午前中は、喝破道場に来るまでの3カ月前からきょうまでの出来事、その間に思ったり考えたりしたことを、自分を主役に小説風に書かせます。午後は、これからのことを考え、どう生きることが自分にとって最も素直な生き方で、父や母をはじめ周りの人たちが喜んでくれるかを書いて終わりです。

――自分の物語をつづるのですね。

一日最低400字詰め原稿用紙30枚書かせると、書いていくうちにボロボロ涙を流し、反省の言葉を漏らすようになります。とても効果的なので、内観療法だけでなく坐禅(ざぜん)修行に道場に入った人にも全員、書かせるようにしました。体験者はその時のことを印象的に覚えていて、よく便りをくれます。高校を中退した17~18歳の女性は原稿用紙100枚に、薬物をはじめドラマのような話を書きました。それを読んだ母親は、知らないことばかりで、普段は文章を書かない娘さんがそれほど書いたことに驚いていました。

――大燈さんは横浜市にある曹洞宗大本山總持寺の後堂(修行僧の教育責任者)を務めた時に禅カウンセリングを始めていますね。

禅宗が広まったアメリカで生まれた坐禅・瞑想(めいそう)を取り入れた心理療法を逆輸入したもので、ともすれば強圧的になりやすい修行の改善と、寺で僧侶が信者に向き合うためのノウハウを養うため導入しました。

――年配者向けの内観法は。

起業したばかりの30すぎの方は100枚でも足りないというので、好きなだけ書かせました。書いているうちに心に湧いてくるのは、第一に親への感謝ですね。養育のための苦労などは、親からは子供に言えないことで、子供自身が気付いていくしかありません。それが心の回復、成長につながる。振り返ってみて周囲の人たちに支えられてきたことに気付き、その恩返しをしようと思うのです。

――自分自身を客観的に見るのが内観ですね。

少年院や刑務所では成果があるそうです。法務省矯正局によると、約3割の再犯者により約6割の犯罪が行われていますから、矯正によって再犯率を下げることは大きな課題です。


【メモ】世間学を提唱したドイツ中世史家で『自分のなかに歴史をよむ』(ちくま文庫)などの著書がある阿部謹也元一橋大学長は、ゼミ生に自分の生い立ちと周りの人たちとの関わりを語らせていて、その経験を積んだ学生は就職先でも活躍できたという。人生は自分が主役の物語の創作だとすると、世間の中での自分を物語ることが自己肯定感の高まりになる。いわば内観法のナラティブ(物語)化で、実は誰もが無意識に行っていることかもしれない。

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