《前回》日本の核保有は米国の利益 復刻 米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー氏(上) 【連載】核恫喝時代―識者インタビュー(7)
――北朝鮮と共にアジア地域のもう一つの不安定要因は中国の台頭だ。長期的に見て、日本の核保有は地域のパワーバランスを維持する役割を果たせるか。
多くの理由から、その答えはイエスだ。米国以外に中国を抑えられる国がないことを考えると、日本の核保有は地域の安定に寄与するだろう。
中国は軍事力を増強し、アジアで多国間の枠組みを設立・拡大している。中国の長期的目標が米国をアジアから追い出し、米国に代わる地域の覇権国家になることにあるのは明らかだ。これはちょうど、20世紀初めに台頭したドイツによく似ている。
地域の覇権国を目指していたドイツと英米が対立したのと同じように、現在、米中間には緊張が生じている。中国の覇権阻止を狙う米国は、周辺国との関係を強化することで勢力均衡を保とうとしている。
だが、韓国はまったく信頼できず、北朝鮮に譲歩することしか考えていない。台湾は小さく、脆弱(ぜいじゃく)だ。フィリピンも混乱している。他にどこがあるのか。日本しかいない。日本は中国の覇権を阻止する要だ。反対側の要となるのがインドである。この米中印日の4カ国の中で、日本だけが核を持っていない。
核保有は日本自身にとっても、長期的に中国とのパワーバランスを保つ上で重要だ。中国の人口は膨大であり、日本よりはるかに強力な通常戦力を配備することが予想されるからだ。
冷戦時代、ソ連は強大な通常戦力を保持していた。そんなソ連に対して、米国はどのように均衡を保ったのか。それは核兵器だ。核攻撃だけでなく通常戦力による攻撃をも抑止するのが、核抑止力の本質だ。だから同様に、日本が核兵器を保有することは、中国による通常戦力の攻撃も抑止する。
――日本の核カードは、中国に北朝鮮の核開発を阻止させる上で有効か。
その通りだ。中国は燃料や食糧の供給を止めることで、北朝鮮の体制をすぐにでも崩壊させられる唯一の国だ。だが、中国は何もしていない。なぜか。米国が北朝鮮にくぎ付けであれば、中国はアジアの他の地域でフリーハンドを握れるからだ。
だが、中国は日本の核武装を望んでいない。日本が核論議を開始し、核武装の可能性が浮上するだけで、中国は戦略の再検討の迫られるだろう。
中国にとって重要なのはどちらか。日本に核武装させても、米国を妨害する北朝鮮を存続させることか。それとも、北朝鮮を非核化させても、日本の核武装を阻止することか。答えは簡単だ。中国は後者を選ぶだろう。これは日本にとって、(核を持っても持たなくても日本に利益がある)「ウィンウィン」の状況だ。
――日本国内の一部には、非核政策が日本の外交的地位を高めているとの見方がある。だが、国連安保理常任理事国はすべて核保有国であり、国際社会の現実を考えると、日本人の考え方は少しナイーブではないか。
「少し」というのには同意できない。極端なほどナイーブだ。
欧州の大国、英国、フランス、ドイツのうち、国際社会の中で重要度が低いのはどの国か。ドイツだ。それは英仏が安保理常任理事国だからではなく、核保有国だからだ。
イランや北朝鮮が核兵器を欲しがるのはなぜか。核は軍事力、抑止力、外交的影響力を高めるからだ。これが現実なのだ。
非核政策が外交的地位を高めるという考え方は、自分が善人であれば、人々は耳を傾けてくれるだろうという子供の世界観だ。善人であるだけでは、(ナチス・ドイツに領土の一部が割譲された)1938年のチェコスロバキアのようになってしまう。力を持った上で善人になるならいいが、善人になるために力を持たないというのはばかげた考えだ。(聞き手=早川俊行)
(終わり)
(4)対中で新型核ミサイル配備を 元米国防副次官補 ブラッド・ロバーツ氏(上)
(5)日米韓で拡大抑止協議を 元米国防副次官補 ブラッド・ロバーツ氏(下)