台湾侵攻への米介入を阻止 米軍事専門家 ビル・ガーツ氏 【連載】核恫喝時代―識者インタビュー(6)

<前回>日米韓で拡大抑止協議を 元米国防副次官補 ブラッド・ロバーツ氏(下) 【連載】核恫喝時代―識者インタビュー(5)

――中国はここ数年、核戦力を急速に増強している。何を目指しているのか。

中国は、ミサイル、爆撃機、潜水艦、核弾頭など核戦力の増強を進めている。これほどの増強は前例がなく、米国と当時のソ連が核戦力を拡大した1960年代以来のことだ。

米国防総省は、中国の核兵器に搭載される核弾頭の数は今後数年間で3倍に増加し、現在の約250発からいずれ約1500発になると推定している。これらの核弾頭は、1980年代から90年代にかけて中国が米国から盗んだ技術で製造されたものだ。

核戦力増強を目指すのは、中国共産党が支配する中国を世界最強の国家にし、中国共産党の国内統治を維持し、中国共産党の統治モデルを世界に拡大するためであり、これは中国の最高指導者、習近平国家主席の計画の核心だ。中国は核戦略を公表しておらず、その目標も発表していない。さらに、1968年に署名し、1970年に批准した核拡散防止条約(NPT)の下で米国との核軍縮交渉を行う義務があるにもかかわらず、これを拒否し続けている。

Bill Gertz 米紙ワシントン・タイムズの安全保障問題担当記者として、これまでに中国、北朝鮮などを中心にスクープ記事を多数執筆。著書に「Deceiving the Sky(空を欺く)-地球的覇権狙う共産中国、活動の内幕」(Encounter Books)、「誰がテポドン開発を許したか」(文藝春秋社刊)など。本紙でコラム「ワシントン発 ビル・ガーツの眼」を執筆。

――ウクライナ侵攻でのロシアの核による威嚇で、改めて核兵器の有効性が確認された。

ロシアにとって核の恫喝(どうかつ)は、ウクライナ侵攻への米国と欧州の直接介入を阻止するための効果的な地政学的手段となっている。中国はこの紛争から多くの教訓を得たが、その一つが核兵器の持つ価値だ。

中国は、急速に増強した核戦力を使って、台湾を巡る将来の紛争に米国が介入するのを思いとどまらせることを計画している。そのための主要兵器には、核弾頭を搭載可能で、日本を射程に収める「東風11」と「東風15」の短距離弾道ミサイルがある。中距離弾道ミサイルの「東風21」と巡航ミサイルの「東海10」も日本を攻撃できる。そしてグアムまで届く中距離弾道ミサイル「東風26」とハワイを攻撃できる「東風27」がある。中国のミサイルはすべて通常弾頭と核弾頭のどちらも搭載可能と考えられている。

中国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風」=2019年10月、北京(EPA時事)

――その一方で、バイデン政権は核兵器の削減を目指している。

バイデン政権の核政策立案者らは、最新の「核態勢の見直し(NPR)」で、米国の国家安全保障政策での核兵器の役割の縮小を目指すことを明確にした。NPRはまた、低出力核弾頭と核搭載巡航ミサイルの撤廃を求めている。しかし、議会では国防権限法案の中で、共和、民主両党が新型の低出力核弾頭と核巡航ミサイルを支持し、これらの方針を覆そうとしている。これは、中国の核の脅威が増大したからだ。その結果、核の脅威に対する抑止力を維持するために、もっと強い対応が求められるようになった。

中国の核増強は、世界の安定にとって大きな脅威だ。その主な理由は、増強の根拠や、どこまで増強するつもりなのかについて、中国から明確な説明がないことにある。中国は核の先制不使用を政策としていると主張しているが、中国西部に推定320基の長距離多弾頭ミサイル用サイロを増設するなど戦力を増強、核の脅威がいっそう強まっていることは間違いない。

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