《前回》対中で新型核ミサイル配備を 元米国防副次官補 ブラッド・ロバーツ氏(上) 【連載】核恫喝時代―識者インタビュー(4)
――中国が台湾有事で核兵器を使用する場合に考えられるシナリオは。
中国が台湾への攻撃で核兵器を使用した場合、戦争に勝ったとしても、非常に大きな人道的問題を自ら作り出すことになる。数十年にわたって土地の浄化に多額の費用もかかる。だから、その可能性は高くない。
海上を航行する艦船に対して核兵器を使用する可能性もあるが、それらを見つけるのは難しい。日本などの米軍が活動する基地に対し核兵器を使用すれば、戦争を大きく拡大することになる。特に日本への核攻撃は中国への核報復を招く可能性が高い。
従って、台湾有事における核使用の選択肢は、いずれも中国にとって魅力的でないようだ。
――台湾有事の際に中国が核の脅しを用い、米国や日本が台湾支援をためらうことは考えられるか。
もちろん、中国が威嚇することは考えられる。だが、それに支配されるかどうかはわれわれ次第だ。米国や日本の重要な国益が危険にさらされた時、それを守るために非常に高いレベルのリスクを受け入れ、大きな代償を払うことも厭(いと)わないかどうかだ。
――北朝鮮は戦略核と戦術核の両方を開発しているが、これらをどのように用いる可能性があるか。
まずは核による威嚇だ。2010年の北朝鮮による韓国・延坪島への砲撃のような事件が再び起こる可能性があるが、今度は核の威嚇が伴うものになる。
金正恩朝鮮労働党総書記は常々、核兵器を使用する場合、最初の標的は東京だと言っている。日本人を恐怖に陥れ、朝鮮半島を巡る戦争で米国を支援させまいとしているのだ。
ただ、北朝鮮の核攻撃は、おそらく何らかの作戦上の利益を得るため朝鮮半島でのみ実行され得るだろう。結局のところ、北朝鮮の軍隊はかなり弱いからだ。
――米国の核兵器の老朽化が進んでいるとされるが、核抑止力への影響は。
さほど影響はない。米国では超党派の支持を得て、既存の核兵器をすべて2080年代まで使用できる近代的なシステムに置き換える途上にあるからだ。
ただ、この計画のため工場や施設は今後10年間はフル稼働となるので、それ以外の新たな核能力を生産することは容易ではないだろう。だが、こうした近代化計画を実施しているので、同盟国は抑止力の低下を懸念する必要はない。
――拡大抑止力を高めるために、日米は協力関係をどう強化できるか。
私が関わって13年前に創設された拡大抑止協議は、日米、米韓の2カ国間で行われている。だが、金正恩氏が韓国を支配するために核戦争に踏み切れば、日米韓の国益に関わる戦争となる。だからこの3カ国で対話し、共通の理解やアプローチを得ることが必要だ。
ハード面では、安倍晋三元首相が北大西洋条約機構(NATO)のような核共有について議論する可能性を提起したが、これは日本が核兵器の運搬が認められた米航空機を受け入れる可能性を意味する。
他にも米国の核兵器や運搬システムをグアムに配備することや、日米で共同訓練を行うこともできる。
――日本には米国の拡大抑止力を信頼できないとして、核武装をすべきとの声もある。
まず、われわれは日本の主権的選択を尊重する。また、核危機における米国の決意を疑問に思うのは、米国に依存する国にとってまったく正常なことだ。
ただ、私は米国が核危機の際、リスクを負って日本を守るためにあらゆる手段を講じると強く確信している。核武装は奨励しない。それには、さまざまな悪影響があるだろう。
(聞き手=ワシントン・山崎洋介)
(4)対中で新型核ミサイル配備を 元米国防副次官補 ブラッド・ロバーツ氏(上)