<前回> 核恫喝時代―識者インタビュー(1)北朝鮮の核 標的は日本か
――日本は中国、ロシア、北朝鮮の核保有国に囲まれている。日本に対し核恫喝(どうかつ)・攻撃を行う可能性が最も高いのは。
中国だろう。現在の情勢では、中国が固有の領土であり核心的利益と主張する尖閣諸島の奪取に動く可能性が高まっている。米国が動けないからだ。ウクライナ戦争により米国の武器・弾薬が10月ごろに切れる。この状況はバイデン大統領も認めており、世界中に知れ渡っている。中国が尖閣を取りに来た時、自衛隊が対抗措置を取ろうとすれば、核恫喝をかける可能性は十分ある。
昨年もペロシ米下院議長が台湾を訪問した際、中国は恫喝でミサイルを11発撃ったが、このうち5発は日本の排他的経済水域(EEZ)に落とした。明らかに日本への恫喝だ。それに連動して中露爆撃機の共同飛行も行っている。中国もロシアも自国製の極超音速ミサイルを爆撃機に搭載している。いつでも日本をミサイル攻撃できると誇示しているのだ。
――台湾有事で中国が核を使用するシナリオは考えられるか。
核は実は防御的兵器だ。切羽詰まってそれ以外に打開策はないという時に、劣勢側が使う可能性が高い。今のロシアのように、優勢側は通常戦力で戦争目的を達成できるので、あえて使う必要がない。
台湾有事で核使用の可能性が最も高いのは、中国軍が台湾に侵攻したが、空港・港湾の奪取に失敗して上陸部隊が孤立化してしまう場合だ。台湾海峡が封鎖され、海空優勢も取られて上陸作戦が頓挫しそうな時に、事態を打開するために核を使うことが考えられる。
――核は劣勢時に使う可能性が高まるということは、台湾側が優勢になればなるほど、逆に核リスクが高まるということか。
あるいは戦争が長引いた場合、中国国内で暴動が起きたり、軍の一部で反乱が起きたりすることもあり得る。そのような危機的状況になれば、中国は一刻も早く戦争に決着をつけないといけない。その時、核を使って日米に台湾支援を諦めさせ、台湾軍を完全に孤立させて降伏を強いる。そのように核を使う可能性もある。
――中露で核使用のハードルに違いはあるか。
ロシアは曲がりなりにも議会制民主主義の国だ。ソ連型の独裁ではない。これに対し、中国は完全な共産党一党独裁政権だ。
毛沢東の大躍進政策や文化大革命を見れば分かるが、どんな人的犠牲も顧みないのが中国だ。上海などの大都市が核攻撃を受けて仮に1億人が死んだとしても、全人口の10分の1以下だ。中国指導部は核戦争を耐え抜けるという戦略を持っていないとも限らない。
核戦争を本気で戦って勝てるのは中国ぐらいではないか。人命の損失に対する感受性がわれわれとは全く違うからだ。それが何より怖い。だから米国は間違っても中国と核戦争をする気はないと思う。
――核保有国の中露が接近している。
最大の人口を持つ中国と最大の領土を持つロシアが手を組んで対抗し、万一、核戦争になったら、米国には勝てる見通しはないだろう。長距離の戦略核、中距離の戦域核、短距離の戦術核のどのレベルでも、中露が一体化すれば米国の核戦力は劣勢になるからだ。核戦争になり、中国の核攻撃で5000万人、ロシアの核攻撃により1億人の死傷者が出たらどうするのか。米国民の約半数が殺傷されることになる。
バイデン氏はウクライナ戦争で、そういう状況に自ら追い込むという愚かなことをやってしまった。
(聞き手=窪田伸雄、早川俊行)