最も順調なシナリオで開発
核恫喝(どうかつ)を行いウクライナを侵略するロシア、核戦力を増強する中国、急ピッチで核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対し米国の“核の傘”を借りる日本の安全保障はこのままでいいのか、有識者に聞いた。
――ウクライナに侵攻したロシアの核恫喝をどう見るか。
通常戦力ではロシアが圧倒的に優勢であり、核は使用しないだろう。ロシアが核を使用する条件は、①ロシアまたはその同盟国に対する弾道ミサイルの攻撃が確認された場合②同盟国を含め大量破壊兵器による攻撃が行われた場合③核の指揮統制システムを脅かす行動が取られた場合④通常戦力による攻撃で独立主権や領土の一体性が脅かされるなど国家の存立そのものが脅かされた場合だ。今はいずれの状況でもなく、核を使う可能性は低い。
――ロシアの核恫喝への米国の対応は。
バイデン米大統領は開戦前の2021年12月、ウクライナには米軍を派遣しないと明言した。これがロシアの軍事侵攻の呼び水のようになったが、米国は絶対に核戦争のリスクは冒さないだろう。
供与に踏み切ったF16戦闘機は、核弾頭搭載型に改修できる。だが、訓練を経て使えるのは早くても来春以降だ。北大西洋条約機構(NATO)は、ロシアとの核戦争の脅威になるようなことはしていない。
――北朝鮮の核能力をどう評価する。
数年前の米国の見積もりでは、北朝鮮の核開発が最も順調に進むシナリオが、22~23年ごろにミサイル総数が1000発、核弾頭数も100発を超えるというものだったが、このシナリオに沿って進んでいる。
金正恩体制が「火星」シリーズの弾道ミサイルを撃つようになってから、核戦力の中核に戦術核を置くと言明し、昨年ごろからその増産に力を入れている。
――北の核開発に拍車が掛かったのはなぜか。
以前はウクライナが主に北朝鮮の核・ミサイル開発の支援をしていた。ソ連崩壊後、ウクライナはじめ旧ソ連の科学技術者が数千人規模で北朝鮮、イラン、パキスタンなどにヘッドハンティングされた。火星12、14、15の「白頭山エンジン」もウクライナ製だ。
ウクライナ戦争が始まったことで、代わりに北朝鮮を支援するようになったのがロシアだ。5月末に打ち上げに失敗した衛星の残骸には、ロシア製部品がかなり含まれていたそうだ。
ロシアのウクライナ侵攻後に北朝鮮のミサイル発射実験が増え、かつ成功率も高いのは、既に完成され密(ひそ)かに引き渡されたロシア製兵器の性能を確認する“領収試験”ではないかと思われる。
――ロシアが北朝鮮を支援をする狙いは。
ウクライナ正面への米軍の圧力を緩和するために、北朝鮮に実験をどんどんやらせ、北東アジア正面に米軍を拘束する戦略的、政治的な意味もあるだろう。
――北朝鮮が核攻撃する可能性が最も高いのはどこか。
北朝鮮は韓国を占領するつもりだから、核攻撃で韓国を荒廃させるわけにはいかない。米韓の専門家は、一番可能性の高いのは日本だと言っているが、私もそう思う。
韓国有事では朝鮮戦争の時のように米軍基地のある日本が一大後方支援拠点になる。間違いなく日本に撃ち込んでくる前提で考えなければならない。
朝鮮戦争の停戦後、金日成は弾道ミサイル開発の指令を出した。朝鮮戦争が再び起きた時は、韓国だけでなく在日米軍を叩(たた)くことが必要だと言った。将来的には米本土を攻撃できる弾道ミサイルを造ることも命じた。そこに核弾頭が搭載される。北朝鮮の長年の宿願が今、達成されようとしている。
(聞き手=窪田伸雄、早川俊行)