【持論時論】自然美を映すキモノの魅力―デザイナー アリオンサナーさんに聞く

再活用に取り組むモンゴル人 色柄も人気 民族衣装も

「事業」が環境大臣賞受賞

海外でも高い評価と人気を誇る日本の着物が、モンゴルで民族衣装などに生まれ変わっている。「終活」や「着る機会がない」といった理由から、家庭で眠ったまま保管されている着物は、ある調査で約8億着、価値にして約40兆円分とされる。中には状態が良く、貴重なものも少なくない。そんな不要になったがまだ使える着物や帯の再活用に取り組む「お針子事業」“Kimono Upcycle Cloth Ohariko”(東京都港区の日本リユースシステム、山田正人代表取締役)は累計41万着余りを国内外で活用・再製品化してきた。主な輸出先の一つ、モンゴルで着物の魅力に惚(ほ)れ込み、同事業の製品デザインを手掛けるモンゴル人デザイナーのハドバータル・アリオンサナーさんにこのほど、話を聞いた。(聞き手=辻本奈緒子)

Khadbaatar Ariunsanaa モンゴル・ダルハン・オール県ダルハン市出身。モンゴル国立教育大学を卒業後、服飾の道へ進み、工房経営を経て日本の着物と出合う。2019年よりお針子事業「Kimono Upcycle Cloth Ohariko」に携わり、不要になった着物を素材とした民族衣装などの作品を制作。カンボジアの服飾学生などへの指導も行い、世界を舞台に着物の魅力を伝えている。

――着物の魅力を感じた点は。

着物は草花や鳥など、自然界をヒントにデザインされていて、生地を広げてみると新しいアイデアが得られる。絵柄の意味を調べたり聞いたりするほど、どの着物もより貴重に感じられる。

また、着物には捨てるところがない。着物に出合った5年前から、作品制作に他の素材は使っていない。

――着物を活用してどのような製品を作っているか。

モンゴルの民族衣装であるデールを、「お針子デール」として生まれ変わらせる。モンゴルでは旧正月や夏祭りなどの行事でデールを着る人が多く、家族でお揃(そろ)いの色柄のデールも人気だ。日本の着物で作ったデールも、人々に喜ばれている。

女優やスポーツ選手などの著名人が着たことでも、よく知られるようになった。

日本から送られた着物や帯はモンゴルの現地法人の工房職人たちが手作業で反物に戻し、新たな製品に生まれ変わる。デールの他にも、ジャケットやバッグ、靴などを作っている。

――制作する上でのこだわりは。

古着から作る製品だが、まるで新品に見えるように作っている。例えば、シミのある部分は織り込むなどして上手(うま)く隠し、着物の元の柄を生かしてずれることがないように縫製し直している。人々も、古い着物から新たな製品が出来ているとは想像もしない。

また、着物以外の素材や生地を組み合わせず、着物だけを使うことにもこだわっている。

――着物を扱う以前から服飾の仕事をしていたのか。その道に進んだきっかけは。

7年前より個人でデザインの仕事をしていたが、2019年からお針子事業に携わっている。

原点は、子供の頃に母が服を作ってくれていたことだ。私自身も6年生(日本の小学6年生に相当)の時に服飾の大会に出場したのだが、当時良質な生地を手に入れるのが難しく、小麦粉の袋を使って服を縫って出品した。その大会で優勝したことが、自信になった。

本格的に服飾の道を志したのはずっと後になってからだった。大学では体育学部で、スポーツ選手になろうと思っていた。学生生活を終えて家庭を持ってから、海外に出稼ぎに行っていた時期もあった。ただデザイン画を描くなどは続けていて、服作りへの思いはずっと持っていたと思う。

ある時、母と同じように子供の服を作りながら、「これが私のすべきことなんだ」と確信した。

――工房は、障がい者やシングルマザーの雇用にもつながっていると聞いている。

お針子事業では、シングルマザーや障がい者の働く場所を創出することにも貢献している。モンゴルではまだそういった場所は多くないが、働く場を見つけて毎日喜んで仕事をしている人もいる。

――海外の学生への研修も担当したとか。

事業の一環で、今年2月にカンボジアの服飾を学ぶ学生たちに講義をしに行った。着物を素材とした服作りを指導してきた。

――学生たちの反応は。

最初はよく分からなかった学生たちも、着物の絵柄、例えば花など、意味を説明してあげて、それをどのようにほどいて反物に戻し、また服にするのかを披露すると、「わあ」と声を上げるほど驚いていた。

――日本に対してどんな印象を持っているか。

今回初めて来日したが、清潔でとてもいい所だと思う。お針子事業を通して日本人と一緒に仕事をするようになったが、日本人は言ったことを守る人々だ。また、私たちの好きなように自由に仕事をさせてくれる。

実は今、日本語教室に通い日本語を勉強中だ。

【メモ】着物の虜(とりこ)になり、その美しさを生かすことに余念のないアリオンサナーさんのこだわりと職人技には、目を見張る。取材当日に本人が着ていたデールも自身で手掛けたもので、いったん反物に戻してから繋(つな)げた柄の継ぎ目も、近くで見ないと分からないほど緻密だ。

お針子事業を2017年に旗揚げした日本リユースシステムは同事業で、環境省主催「環境 人づくり企業大賞2019」で環境大臣賞を受賞した。捨てられない着物が誰かの役に立つことと世界のシングルマザーや障がい者の雇用に繋げるといった二つの社会問題を同時に解決する事業となっている。アリオンサナーさんらと一緒に来日した、車いすで生活しているモンゴル人職人の「毎日ワクワクで仕事が楽しい」と語る満面の笑みは、特に印象的だった。

「日本の着物生地は世界的に人気で、特にアップサイクル文化の先進国、欧州の人々も買い付けに来ている」と、日本リユースシステムの辻本真子さんは話す。

「捨てさせない屋」を標榜(ひょうぼう)する同社では、企業のSDGsの取り組みに関する支援パッケージを取り扱っている。問い合わせは以下まで。


 日本リユースシステム株式会社 辻本真子

 電話:080(7283)5078

 メール:atr.mt@nrscorp.jp

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