米ヘリテージ財団上級研究員 マイケル・ピルズベリー氏
中国は1949年の建国から100周年の2049年を目標に、米国から世界の超大国の座を奪おうとしている。中国が隠し持つ「100年マラソン」戦略を暴いた著書で著名なのが、マイケル・ピルズベリー米ヘリテージ財団上級研究員だ。ソウルで開かれた国際会議に出席した同氏に、北東アジアの安全保障情勢や米国の対応などについて聞いた。
(聞き手=ソウル・豊田剛)
――台湾海峡の緊張をどう分析するか。北朝鮮との関わりは。
誰が台湾を所有しているのか、どこに属するのか問われると、中国は中国の一部だと答えるが、米政府は立場を明確にしていない。現状では米国は台湾を守る法的な根拠がない。
昨年のペロシ下院議長や先月のマコール下院外交委員長の台湾訪問に対して、中国の習近平国家主席は強く反発した。米国は外交関係がないため、民間レベルの交流だと言い逃れできるが、台湾の地位はいまだに宙に浮いたままだ。有力政治家による一連の台湾訪問は、米国は台湾が中国の一部であることを支持しないメッセージだ。
台湾海峡と北朝鮮問題は明確に関連している。もし習主席が台湾を侵攻すれば、北朝鮮の決定に影響を与えるだろう。この地域で二つの戦争が同時に勃発するリスクはある。
平和とは「戦争が起きていない状態」という見方もできるが、双方の誤解、特にパワーバランスの誤解が戦争につながると思う。負けると思って始める戦争はない。大失態を犯す場合もあるが、それがロシアに当てはまるのかもしれない。
――北朝鮮の独裁政権にはどう対応すべきか。
韓国政府にはインテリジェンス分析をするようアドバイスしたい。北朝鮮の金正恩総書記に対峙(たいじ)する場合、トランプ前米政権の対応が役に立つ。
マイク・ポンペオ前国務長官は著書の中で述べている。平壌で金正恩朝鮮労働党総書記(当時は党委員長)と対話した時に「あなたが私を殺そうとしてきたことを知っている」と質問されると、「今も殺そうとしている」と冗談で返した。当然、その場で殺害することはあり得ないが、冗談を言うことで相手の心理を知ろうとした。韓国は心理を利用して交渉を行うよう務めるべきだ。
習主席も常に恐れを抱いている。それは誰かに殺害されるというものではなく、ソ連共産党が崩壊したことと同じことが中国に起こるのではないかという懸念だ。
中国・北京の米国大使館には2300人が務めており、両国間で100以上の協定が結ばれている。習主席は、米国がソ連崩壊を仕掛けたように、同じことを中国にしようとしていると不信感を持っている。
ただ、ソ連は米国が崩壊させたのではなく自滅した。米国には中国共産党を崩壊させたり、習主席を失脚させたりする意図はない。過度に恐れることなく、ルールと秩序をもって米国との対話に応じるべきだ。
「欺瞞」が中国の中心戦略
――中国の戦略にはどう対抗すべきか。
中国と対峙するには、中国の戦略、歴史、文化、思考を知ることだ。米国と違い、中国は相手がどう考えるかにまで影響を与えようとする。
中国の中心戦略の一つは、相手を欺くことだ。10年前、中国人女性に核兵器や他の軍事機密情報を漏らしたとして米太平洋軍所属のベンジャミン・ビショップ陸軍兵が逮捕されたが、これがいい例だ。2人はハワイで開かれた会議で出会っていた。恋に落ちて、女性が狙っていた対中戦略を含む20もの最高機密情報を渡してしまった。
もう一つの戦略は、無防備な相手を麻痺させ、無力にすることだ。米国をはじめとする西側諸国はこれまで、中国に対し無防備すぎた。儒教の国だから、野望がなく親切で正直で誠実で平和を愛する国だと思うかもしれないが、内部で起きていることはルールを強要し人々を罰することだ。
過去300~400年で孔子の教えを守ることと無慈悲な支配者のどちらの戦略が中国で成功したのか。新しい王朝はすべて武力によって誕生したことを忘れてはならない。習主席に従う人々は、外側は孔子を装うが、中身は習氏の分身なのだ。
今では中国の数々の悪行が世界中で暴露され、世界が中国を脅威だと思っている。中国専門家のアーロン・フリードバーグ氏は近著「GettingChinaWrong」(中国に対する誤解)で過去30年間を振り返り、間違いの例を列挙した。ヘリテージ財団はウイグル自治区の民族弾圧、技術盗用など中国の100の悪行について報告書を発行した。問題を列挙しただけではなく行動計画も挙げた。
こうした対策が国民の大多数で支持され、上下両院で通過することが望ましい。今やることは、「GettingChinaRight」(中国を正しく導くこと)だ。