岸田文雄首相が7日から現職総理としては約5年ぶりに韓国を訪問する。3月の尹錫悦大統領訪日に呼応した「シャトル外交」で、日韓関係改善の動きが加速する可能性も出てきた。韓国与党「国民の力」の最高委員で、韓日議連にも所属する北朝鮮外交官出身の太永浩議員に、日韓関係や両国が直面する北朝鮮の武力挑発などについて聞いた。(聞き手=ソウル・上田勇実)
――尹大統領訪日後、韓国では尹氏の支持率が下落した。日本に譲歩し過ぎたという批判があるようだ。
その後も日本の外務省が発刊した「外交青書」に独島(=島根県竹島)を日本固有の領土と記され、韓国ではこれを問題視する声が上がった。私は「そんなに反日的に見ては駄目」と言ったが、左派陣営から「日本を擁護した」と批判を浴びせられた。だが、青書は韓国のことを3年ぶりに「国際社会の諸問題を解決していく上で重要な隣国」と表現した。韓日、韓米日3カ国の関係をさらに発展させていくという内容もある。尹大統領訪日に対する日本側の答礼と受け止めてもいいものだ。
――韓国は岸田首相訪韓に何を期待するか。
重要なのは、独島領有権にしろ強制徴用(元徴用工)問題にしろ何十年も未解決なのだから、ひとまず棚上げにすること。相手の悪い部分だけを指摘すれば対立しか生まれない。抗議すべきは抗議したとしても、未来に向け協力するツー・トラック方式でいくべきだ。首相の訪韓は韓日関係に残る否定的なムードを転換させる好機だ。そして日本側も尹大統領が「親日派」のレッテルを貼られてコーナーに追い詰められ過ぎないように、有力議員などが韓日改善に向けさらにメッセージを発信してくれることを期待したい。
――日韓は対北抑止に向け連携を深めなければならない。エスカレートする北朝鮮の武力挑発をどう見るか。
ロシアのウクライナ侵攻後、北朝鮮のミサイル開発が急ピッチで進んだ。ロシアから技術移転された可能性がある。戦争が長期化している背景には、欧米諸国がウクライナに武器を支援していることがある。そうした状況に苛(いら)立ちを感じたプーチン大統領が、他の国から米国を刺激して少しでも米国の力を削(そ)ごうと考え、その適任国と考えたのが北朝鮮だ。北朝鮮に挑発の度合いを強めてもらうことがロシアにとって有効な欧米牽制(けんせい)カードになる。そのためにミサイル技術を移転したのではないか。
――多種多様なミサイル発射をどう見るか。
最近のミサイル発射は韓米合同演習や戦略資産の投入に逐一反応した対抗型だ。単なるミサイルの多種多様化だけではない。米軍がB1B戦略爆撃機を韓国上空に展開させると、北朝鮮は空中核爆発の訓練を行い、米空母ニミッツが韓国に寄港すると、核魚雷の「核無人水中攻撃艇」の発射実験を実施した。米国に具体的な課題を突き付けるような対抗型の挑発だ。
――金正恩総書記の娘が北朝鮮メディアに盛んに登場するようになった。
私は脱北する前、金正日総書記(当時)が死亡すれば体制が崩壊すると信じていた。後継者が公表されていなかったからだ。だが、正恩氏の登場でがっかりさせられた。まだこの体制が続くのかと。正恩氏は北住民が受ける落胆やショックを和らげるためにも、今から娘を登場させ、この体制が4代目も続くことを肝に銘じさせようとしている可能性がある。