一枚板のテーブルや美しい曲面の椅子、伝統的な箪笥(たんす)や木のおもちゃ、曲げわっぱの時計など、秋田県の優れた匠(たくみ)が生み出す新作家具展が、このほど秋田市文化創造館で9日間にわたって開かれた。主催は秋田公立美術大学で、秋田県家具工業会が共催。「ORAe展示会2023春」と「第62回秋田県新作家具展」(同工業会)の合同展示会である。その中心で活動している今中隆介氏に新しい家具作りや木工業の未来を聞いた。(聞き手・伊藤志郎)
――ORAeはどういう存在か。
秋田県内の優秀な事業者――最近は「作り手」と言っているが、物作りを生業(なりわい)として生活されている方々が実は秋田は多い。
日本には現在「六大家具産地」と言われる場所があるが、秋田県では秋田木工さん以外はすごく小さな工房さんや個人でやり続けている。しかし、これだけのクオリティーの作品を作っているのを秋田の県民・地域の人があまり知らない。
戦後の経済発展モデルは、大きい会社にしてたくさん売って情報発信する形を取っていたが、ORAeではまず地域の人に秋田の物作りってすげーんだぞ、技術やこだわりがすげーんだぞということを見て知ってもらい、秋田の物作りはすごいなと自分たちが誇りに思って地域が一丸となった発信力を持つことを目指している。そのために、作り手を緩やかにつなげて発信している。
極力、補助金や助成金に頼らずに、作り手のみんなでやることで、市民や行政から声が掛かって、東京で展示会やりませんかみたいなことをロードマップとして描いている。すごく長期的な視点に立ってだが。
――展示会場を見ていたら、若手とベテランがかなり交流している。
めちゃくちゃ生まれている。家具工業会所属の会社社長と33歳のORAe会員が協力するとか。会場でも金工作家と川連(かわつら)漆器作家、社長と若手が会話していたので、どんな内容か僕も興味がある。
――師匠と弟子とか年齢差、それに家具や建具、組子、小物、玩具とかいろいろな業種がある。
最近は「壁のない平らな箱」という表現をしている。世代とか様式、技術のレイヤー(階層)があるし、価値観のレイヤーもかなり大きいが、熟練の技術者と若者がぶつかることで相乗的な美しさが生まれる。
今までだと伝統的工芸品、例えば曲げわっぱだったら曲げわっぱで評価していたが、今回のような会場でやると若い人も参加するし、さまざまな分野間の交流もなされる。それがORAeの展示会をやる意義で、実験場にもなっている。あと、教育も入っていて、私が勤める秋田公立美術大学の学生がプロの作り手と共に作り上げた作品も出展している。
――若手とベテランの人がコラボして生まれた作品は。
一例として、昨年に引き続き農林中央金庫の「国産材利用拡大活動」寄贈プロジェクトに参加した内容を紹介する。
今年3月に秋田市の公共施設「あきた芸術劇場ミルハス」の館内に「案内誘導掲示板」を寄贈した。材料乾燥・加工、提案・設計、制作と4社が加わり小さい木のような製品6個を制作した。
秋田の森林を象徴化、記号化したオブジェで、掲示板が増えると森が生まれるようにした。この掲示板の制作法はまさしく、箪笥職人の親方とCAD(コンピュータ支援設計)技術の導入を考えた若手弟子の会話から生まれた。七分割した材料を張り合わせ、中は中空で下に重りを付け安定させている。
もう一つ、カーブが特徴の椅子は家具工房・杢(もく)代表の杉山孝史さんの定番だが、若いHOLTO(ホルト)さんが椅子のデザインに合ったテーブルを作ることにした。
ホルトさんは節や虫食いや割れがある素材が自然の美しさだという考えを持っているし、建材も使う。建材は通常は建物の中に隠れるものだ。
これまでの家具職人の、もっともいい材で最高のものを作る概念からすると、駄目なところを捨てなくちゃならない。杉山さんはいつもだったらもっと目の詰まった素材を使っていたのに、今回はあえて建材を使って椅子を仕上げた。価値交換したわけだ。
さらに言うと、教育の観点から、学生と熟練技術者との出会いにも期待している。
「ソウゾウの森会議」にも加わっている。これは国立研究開発法人科学技術振興機構より、秋田県内の三大学(秋田県立大学、秋田公立美術大学、国際教養大学)と株式会社Q0(キューゼロ、本社東京)の連携チームが事業支援を受けて実施する人材育成プロジェクトで、2年間の育成型支援を経て24年度から本格型となる10年間の事業支援への昇格を目指している。
学生が作り手とつながり、作り手同士もつながる。木工とかデザインを学んでいる学生がプロの作り手と対話することでつながりができ、社会への循環を生み出していく。
プラスチックは非常に万能な素材だが、その歴史はまだ60年ほどしかたっていないし、マイクロプラスチックなど社会問題を引き起こしていて、消費者は自然素材に回帰している。ただ安くという裏にはどこかで誰かが犠牲になっている。
家具も、原材料から作り手まで履歴があって、大切に作られたものを、その気持ちを受け取って、いいものを長く使うという時代を取り戻そうとしている。一枚板の木のテーブルなら、コンマ1ミリ削れば、新品のようになる。
――木材資源や森林の保護・活用、里山の復活についてはどうか。
その辺は走って行く。ORAeではムービーも作って、ホームページやSNSで発信している。
川上の材料の伐採から、川中の製材、そうして生み出された素材を作り手が受け取って心を込めて製品を作り出す。作品は修理もしながら100年を超えて大切に使われていく。そして100年たって木が育つ。
【メモ】ORAeでは、秋田で有名な杉だけでなくミズナラやクリ、ケヤキ、イタヤなど多様な県産材を軸としつつも、金属や石材、陶器、ガラスといった副素材を取り入れた製品や、秋田県立大学木材高度加工研究所が開発する新素材なども視野に入れた商品展開に挑戦している。
製品は作り手が購入者に直接届け、注文から制作、発送、問い合わせ、修理に至るまで信頼を構築する形を取る。展示会場内では作り手が作品を説明し、来場者の疑問に答える場面が多く見られた。組木のワークショップも大盛況だった。
いまなか・りゅうすけ 1965年広島県生まれ。秋田公立美術大学教授。任意団体ORAe(おらヱ)プロジェクト代表。有限会社r‐homeworks(東京都清瀬市)代表。東京藝術大学卒業後、大手インテリア設計事務所勤務を経て独立、現在は大学でも活躍中。国内外の作品展に多数出品。インテリアやファーニチャー(家具、調度品ほか)、プロダクトデザインを手掛ける。JR秋田駅ラウンジのファーニチャーや同大学ギャラリーなど数多くを設計。 |