トップオピニオンインタビュー【持論時論】激動の中国を生きる―「大紀元時報」日本版共同創設者 張本 真氏に聞く

【持論時論】激動の中国を生きる―「大紀元時報」日本版共同創設者 張本 真氏に聞く

中共イコール中国ではない

日本で知った天安門の真相

もどかしさから解放される

戦狼外交を展開し、台湾侵攻に牙をむく。その強権国家・中国の歴史に翻弄(ほんろう)されながら、内的な価値観をしっかり持ち続け、今では日本国籍を取得している「大紀元時報」日本版共同創設者の張本真氏に、激動の中国をどう生きたのか聞いた。(聞き手=池永達夫)

 はりもと・まこと 1963年、安徽省黄山生まれ。1984年、中国南京大学卒。1999年、東京大学大学院卒。2001年、友人と「大紀元時報」日本版を共同創設。

――文化大革命の時は、どう過ごしていた?

文革は1966年から始まったから、当時は幼稚園の園児だったが、小中学校時代も文革と重なる。学校は、幼稚園も含めて、共産党の洗脳教育の場だった。

幼稚園の時、毛沢東語録をみんな暗記しないといけなかった。覚えた子供は、休み時間に庭に出て遊ぶことができたが、私は覚えなかった。私だけが罰として、壁に向かって立ち暗記を強制させられた。

文革は全国的な大混乱を招いた。黄山でも武闘(各派間武力衝突)が何度もあった。

文革が終わる直前は、中国経済が崩壊するぎりぎりのところまでいっていた。毛沢東死去後、鄧小平が改革開放路線に舵(かじ)を切ったものの当時はまだ、失脚したままだった。

中国の変動は激しい。鄧小平の改革開放路線では、中国の伝統的な仏教とか道教の思想とか勉強できたし、開放だから外国の思想にも触れることができた。日本映画も中国で上映され、高倉健さんとかが中国人に強烈なインパクトを与えた。

ただ改革開放路線当初では、自由経済というわけにはいかなかった。魚や肉はまれにしか出回らなかったし、果物や野菜は地産のものしか売られていなかった。商品を購入するのも、金だけでは駄目で糧票、油票、肉票、豆腐票等々がなければ買うことはできなかった。まだ生産力が乏しく、市場のニーズに追い付いていなかったからだ。

――南京大学卒業後は?

専攻は、大気物理学だったので卒業年の1984年、安徽省の気象研究所に就職して、11年ぐらい仕事をした。

――日本留学を志したのは?

中国科学技術協会のドイツ留学試験に合格し、待ってる間に東大のオファーがきた経緯がある。

――海外に出ると自国の再認識ができるものだが。

私にとっての再認識は、天安門事件の真相だった。

1995年、東大大学院入学試験の準備のため、東大の図書館で本を読んでいた時、天安門事件の写真集を発見した。目を食い入るようにして一枚、一枚、丁寧に見た。6年後に初めて、その真相を目にした天安門事件だった。

――中国人留学生と話すと、日本に来て初めて天安門事件を知ったという学生は少なくなかった。

歴史に封印された天安門事件は、天安門事件後に生まれたような若い世代にとっては認識そのものがない傾向があるものの、天安門事件に遭遇していた私にとっては事実が霧に閉ざされた閉塞感みたいなものがあった。事実を写した写真集で、そのもどかしさから解放された感があった。

1989年の学生たちの要求も過激なものではなかった。それでも共産党政権は、天安門広場に人民解放軍の戦車を投入し学生たちを蹴散らしていった。戦車が突っ込んできた時、隣にいた女学生を助けるために体をぶつけ、戦車になぎ倒され両足を失った北京体育学院4年だった方政さんのような犠牲者も少なからず存在する。

強く印象が残っているのは弾圧直前まで、みんな毎日のようにVOA(ボイス・オブ・アメリカ)のラジオ放送に耳を傾けていたことだ。共産党政権の広報ではなく、真実を語る媒体に飢えていた。

――世界ウイグル会議議長だったラビア・カーディル氏が訪日した折、中国人女子留学生から毒を盛られる事件が起きたことがある。謀略あり暗殺あり、政治目的を達成するために何でもやる体質がある。

中国で今年から始まった警察関係のテレビが、人気を博している。

狂飙(クアンビョウ)という連続テレビドラマで、中国の現在の状況を的確に描写している。

集団グループの社長とか警察、銀行とかメディア、政府関係者とか、利益のためにマフィアのような人間と全部つながっている。

 ――中国でそういう放送が可能?

素材として使われているだけ。中国は報道の自由も言論の自由もない共産主義体制だから、番組そのものは大政翼賛的でマフィアのような裏社会の悪を共産党政権が暴き出し一掃していくような正義のヒーロー的描写ではあるが、それでも共産党政権下のダーティーな社会的闇を赤裸々に描写している。

狂飙とは強い風を意味し、闇を一掃する含意があるが、宣伝は共産党政権にとってお手の物だ。その正義の仮面は見なくていい。ただ、現代中国社会の実相を、実に赤裸々に活写していて興味深い。共産党は手段を選ばず何でも仕掛けてくる。

 ――国家テロリズムも?

そうだ。マフィアは民間組織だが、中共国は国家テロリズムの白色テロだ。

――人間の命が軽いというのはどこからくるのか。自己中心的な中華思想にあるのか、コミュニズムにあるのか。

歴代王朝の皇帝は天子で、天の子供という位置付けで、庶民の命はそんなに重くないという歴史的なものがある。

革命後は、無神論と進化論が幅を利かせた。死んだら何もない世界観で生きているし、人間は猿から進化したにすぎないという人間観だ。

中国で人の命が軽いのは、そうした複合的なものがあるのだろう。

――一般大衆は結構、まだ伝統的社会は存在する。雲南省、ウイグルなどに行くと、北京上海とは全く違う別世界だ。人間として温かいし、隣人や旅人を気遣うようないいものがまだ残っている。

そうだ。特にチベットが顕著だ。中共イコール中国と見るべきではない。


【メモ】張本氏の本名は張(チャン)で中国人法輪功学習者だ。妻も法輪功学習者で中国で弾圧された経緯がある。それ故に中国の外的繁栄に惑わされることなく、ハートの問題である内面性の危機を常に訴えている。「中国に必要なのは道徳の回復だ」というのが張本氏の持論だ。

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