【持論時論】発展する南部鉄器 伝統技術踏まえ機械部品も 水沢鋳物工業協同組合事務局長 戸田 務氏に聞く

欧米やアジアに輸出図る 鉄瓶使えば鉄分の補給に

南部鉄器は岩手県奥州市が有名だ。最近では白、赤、水色などカラフルな小型の急須が外国で好まれ、欧米やアジア各国への輸出も進めている。平安時代からの高度な鋳造技術をもとに、機械部品の生産も活発だ。水沢鋳物工業協同組合事務局長の戸田務氏に南部鉄器の魅力を聞いた。(聞き手=伊藤志郎)

とだ・つとむ 昭和49年、旧水沢市生まれ。24歳から南部鉄器の販売に携わり平成15年に同組合職員。令和3年から水沢鋳物工業協同組合事務局長。

ーー南部鉄瓶の最近のニュースは?

ふるさと納税の返礼品としての申し込みが殺到していて、私たちも驚いています。一昨年の年末から注文が入り始めました。主に鉄瓶で、寄付金の主流は3万円台です。

面白いのがゾウの鼻の形をしたテープカッター(小と大)で、約40年前からスーパーで売られていたが、SNSの発信とネットショッピングによってヒット商品の一つになりました。瓶敷、風鈴も人気です。

ーー新型コロナによる販売の影響は?

毎年9月頃、奥州市の南部鉄器まつりが、当組合が入居する鋳物技術交流センターと伝統産業会館で行われます。二年間のオンライン開催を経て、昨年の43回では対面販売のほかイベントも行いました。影響はあります。

ーー海外への販路が広がっていますね。

旧水沢市は約30年前からヨーロッパ、特にフランスとドイツに南部鉄器を販売しています。昭和29年設立の私どもの組合では約18年前からフランクフルトの展示会にテーブルや食器を出品。海外では紅茶用の急須、特にカラフルなものが人気ですが、従来の黒や茶色も日本的なものとして好まれます。

震災前の2010年、上海万博に岩手県では水沢と盛岡が南部鉄器のブースを設け、上海のお茶屋と販売契約を結びました。「ウーロン茶やプーアル茶には岩手の南部鉄瓶がいいぞ」という評判が立っています。

日本では8年ほど前に中国人による爆買いブームが起こりましたが、水沢と盛岡でも鉄瓶の大量買いがありました。

中国では北京、上海、広州、香港などで国際茶業博覧会が開かれています。広州の会場は幕張メッセが5~6個も入るほどの広さで、組合でも急須や鉄瓶を多く出荷しました。中国内陸部の主要都市や台湾など東アジアでも旺盛な需要があります。

ただし「岩手、南部鉄器」と銘打った偽物が出回っているので、安価なものは注意して下さい。我々が見れば、形や着色の仕方で偽物かどうかはすぐ分かりますよ。

アメリカにもジェトロ(日本貿易振興機構)などを介して販売しています。カリフォルニア州サンフランシスコ市では昨年10月に奥州市の物産展が開かれ、日本酒や前沢牛、米、リンゴ、そして南部鉄器と岩谷戸(いわやど)箪笥を出品しました。近くにはシリコンバレーがあって高額所得者が多く、日本食にも関心が高いです。

ーー当組合のあるここ羽田(はだ)町で南部鉄器が盛んになった経緯は?

平安時代の末に、奥州藤原氏が滋賀県から鋳物職人を招き、鉄鍋や鉄窯、梵鐘を作り始めた。近くには平泉があり、また江戸時代には伊達藩の保護を受け仙台を中心に生産量が伸びます。明治から昭和にかけては軍需産業や日用品、産業用機械の鋳物生産が増え、今では水沢の鋳物産業は60社の鋳物工場と40社の関連工場が一大鋳物工業産地を形成し全国的にも有名になりました。

それと、もともと原料が豊富にあった。北上山地の銅鉄鋼資源と鉄を溶かすための炭、鋳型作りに欠かせない良質の川砂と粘土、そして北上川が近くにあり舟運に恵まれたからです。

今では鉄瓶や急須、風鈴、調理器具などの工芸鋳物に比べ、エンジンカバーなどの自動車部品、マンホールのふた、水道管のバルブ、鉄道や農機具、土木建設関連の鋳物の方が年間の売上金額としては約4倍になっています。

ーー南部鉄瓶が昔から人気なのはなぜか。

一つは鉄分補給です。現代人は鉄分が不足していて、鉄玉のような商品も販売されている。鉄瓶を使うことで日常的に鉄分補給ができます。

第二は、南部鉄瓶は親から子、孫まで五十年も百年も使える。ガスはもちろん、IHに対応する製品もあります。

ーー今後の課題は?

全国的に共通することですが、後継者の問題。50歳代から60歳代は若いうちで、80歳代の職人もいます。そのため、組合が採用し育てる仕組みを作っています。8年ほど前から市と国の補助を受け後継者育成制度を作りました。20代から30代の3人を採用し、女性一人が工房で学んだあと独立しています。

また市では、南部鉄器に関心のある地域おこし協力隊を数名募集しました。鉄瓶では取っ手の「ツル」を作る専門の職人が必要ですが現在、水沢では3人、盛岡には1人しかいません。組合員の会社が協力隊員を3年間受け入れる予定です。


メモ 手づくりの南部鉄瓶では、制作工程が40以上もあることを初めて知った。工程の手始めは、形や口の広さ、注ぎ口やつまみの形、そしてアラレ模様や桜、菊などの文様、「肌」や着色などを勘案し原寸で作図する「デザイン」からスタートする。そこから木型・鋳型を作り、模様押し、鉄瓶の厚み(約2ミリ)を出す中子作りなどを経て湯口から鉄を流し込む。冷えたら鉄瓶をさびにくくする釜焼きや研磨を経て、鉄瓶に漆を塗り、おはぐろをかけながらサビ止め化粧をするーーという職人技があってこそ完成する。=

同組合には法人・個人の約百人の会員が所属するが、この中に日展など各種展覧会の入賞者が12人もいる。東北新幹線・水沢江刺駅近くの伝統産業会館では逸品の数々を展示し、隣の売店では販売する。南部鉄瓶は1万円前後から10万円、さらに20万円を超えるものまで様々だ。

銑鉄(せんてつ)鋳物の出荷額を都道府県別でみると、平成26年の統計で抜きんでているのが愛知県の1,753億円(約71万トン)である。この額は機械用とそれ以外、つまり日用品・民芸品の鋳物の合計額だが、埼玉県(408億円)に続く3位に岩手県(269億円)が入っていることから、水沢鋳物産業の努力が伺われる。

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