Homeオピニオンインタビュー【持論時論】自分史専門出版―グッドタイム出版発行人 武津 文雄氏に聞く

【持論時論】自分史専門出版―グッドタイム出版発行人 武津 文雄氏に聞く

回顧録は子孫へのラブレター

永遠に残る家族の絆 自慢話は人の心打たず

人生の荒波にもまれ、両親から切り離された施設育ちの武津文雄氏(グッドタイム出版発行人)は、人一倍家族に対する憧憬が強い。基本的に活字畑の仕事を転々とするが、最後に見定めた仕事は、家族や後孫に残すことを目的とした自分史専門出版会社の立ち上げだった。(聞き手=池永達夫)

ふかつ・ふみお 1947年7月11日、大分県生まれ。都立神代高校卒、明治学院大学4年中退。雑誌編集者、記者を経てグッドタイム出版を立ち上げ発行人に。50歳過ぎてからの起業家として日経MGで記事になり、NHKでも放映される。近著に『マーフィー博士の朝1分で夢を実現する言葉―無限の能力を引き出す「45の金言」』(コスモトゥーワン刊)。

――グッドタイムはどういった出版会社を目指すのか?

最初は小さくても総合出版をやろうと思っていた。

しかし、顧客は特色がないと選ばない。そこで必然的に個人史とか伝記中心となっていった経緯がある。自分史を書きたい人は結構いるのだが、自分なりにまとめても書き切れなかったりする。

――どうしているのか。インタビューになるのか?

基本は自分で書いてもらうようにしている。インタビューをまとめるだけだと原稿が甘くなる。

忙しい企業経営者など本当に時間がない人は、インタビューを起こして本にするケースもあることはあるが、ほとんどの場合は自分で書いてくる。その構成を変えたり、いじって出版している。

インタビューしてまとめても、本人が気にくわないこともあった。

極力、稚拙でもいいから書きたいことを書いてもらって、それをベースに色づけしたりして完成させていく。

人間というのはいつ死ぬかも分からない。まだ若くても、自分史を書くことを勧めている。それが一つの節目にもなるからだ。

――政治家の回顧録や自伝など、自身の人柄や政策を有権者に売り込むための宣伝パンフみたいなものだが、グッドタイムが目指すのはそういうものではない?

そうだ。回顧録や自分史というと、ややもすれば自慢話になりがちだが、それでは読む人の心を打つことはない。

自分史は家族の永遠の絆を残すことが可能となる。財産はいずれ消えるが、その絆は永遠に残る。自分が死んだ後にも残ることの意味は大きい。その意味で自分史は、100年後の家族に宛てたラブレターだ。

最近は、個人から家族の歴史にも枠を広げつつある。子孫も3代、100年経(た)つと先達たちの記憶は残ってないわけだから、それを伝えるものとして自分史や家族の物語を残しておくというのは目に見えぬ遺産だ。

――武津さん自身、自分史は書いたのか?

準備はしているが、紺屋の白袴(しろばかま)で、なかなか人の世話ばかりに追われて自分のことは後回しになっている。

――もし書くとすると、一番のさびは?

自分は両親を十分知らない施設育ちだ。母親は知っているけど父親は知らない。だから父親に対する憧れと同時に家族に対する渇望というのが、人一倍強いものがある。

父親は終戦まで、軍医で陸軍中尉だった。傷病兵を専門に診る小倉の病院の大分県別府の分院に勤務して、傷病兵をずっと診ていた。母は満州から引き上げて来て、九州で父親と出会っている。

だが父親の両親が、母を認めなかった。母は私を背負って雪深い父方の実家まで行ったが、父にはいいなずけか何かいたのだと思う。

私の想像だけど、母は現地妻だったのではないか。母親は新宿の思い出横町で店を持っていた。

父親はそういう形で負い目があるから、施設に入る前、わざわざ会いに来たことがある。

私は6歳から18歳まで、調布にある児童養護施設の二葉学園で暮らした。高校まで施設から通い大学は、自分で生活しないといけないから明治学院大学の夜間部の社会福祉学科で勉強した。

そういう経緯があって、家族を大事にしたいという思いは人一倍強いものがある。

――家族構成は?

3人、子供がいる。長男が小学6年に書いた詩集は本にした。親ばかと言われればそれまでだが、心ある人は「なかなかいいね」と感動してくれる。

冒頭の「月」は、こういった詩だ。「月はマントをとり ひとしずくの光をこぼした また、月はマントに身をひそめながら 夜のベルを鳴らし 夜のはじまりを告げた」

彼は理系で理屈っぽいのだが、小6で詩が書ける彼の感性に、父親ながら正直驚いたことがある。これはグッドタイム出版を立ち上げる前から、長男の物語を本にして残そうと決めていた。

ここらあたりが出版畑に足を踏み入れることになったスタート地点なのかもしれない。

――書籍の販売にはアマゾンを使っているが、どういう形の契約なのか?

アマゾンが最初、出版社を募集した時に、年50冊以上出せる出版社じゃないと契約しないと言われた。

一年52週だから、毎週1冊というのがノルマだった。担当者はこっそりとその秘策を教えてくれた。それは簡単なパンフを作れば、出版冊数は膨らむというものだった。

結局、そうしたパンフを含めて年50冊、作り上げた。それを3年続けたことで、創業者利益としてアマゾンのシード権を獲得している。

――目標は?

自分史を出すブランディングの確立だ。自分史を出すなら、あそこだと思われるような出版社にしたい。

――総合出版が本のデパートだとしたら、グッドタイム出版は個人史のブティック?

そうありたい。子供たちにいくら自分の逸話を話しても、右から左に抜けてしまう。大事なことでも失念し、聞いても9割以上は忘れてしまうものだ。

その意味で自分史というのは、記憶をたどっていける家族の絆を取り戻すターミナルのような存在だ。形にして残しておくと、思い出せる材料になる。ここらあたりに自分史を残す意義があるように思う。


【メモ】武津さんの仕事部屋は、千葉の外房にある自宅二階の小さな部屋だ。小窓から広大な畑が見下ろせ、九十九里浜からの潮を含んだ海風も入ってくる。3台のPC画面を机に置き、上に張ったロープにこれから出版するプリント済みの原稿がずらりと並ぶ。中央に置かれた椅子から立ち上がることもなく手を伸ばせば、ほぼすべての資料やペンやはさみといった資材にも手が届く。小さな出版社の小さな編集室は、パイロットが座るコックピットのように機能性が高い。ここにはミリオンセラーを狙う野心はない。あるのは、小回りが利く機動力を生かしながら人に寄り添う優しさだ。ついの住み家があるのと同様、人についの仕事というものがあるとすれば、こういう仕事がいいかもしれない。

 ふかつ・ふみお 1947年7月11日、大分県生まれ。都立神代高校卒、明治学院大学4年中退。雑誌編集者、記者を経てグッドタイム出版を立ち上げ発行人に。50歳過ぎてからの起業家として日経MGで記事になり、NHKでも放映される。近著に『マーフィー博士の朝1分で夢を実現する言葉―無限の能力を引き出す「45の金言」』(コスモトゥーワン刊)。

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