【持論時論】少子高齢化時代の社会保障〈下〉―平成国際大学名誉教授 佐藤 晴彦氏に聞く

求められる家族省創設 無駄を省き一本化

効率的な運用が可能に

英国が始めた社会保障制度は画期的だったが、税で資金を手当てしようとしたため限界があった。その限界をドイツは保険制度でカバーすることでクリアした。平成国際大学名誉教授の佐藤晴彦氏は、少子高齢化時代を迎えたわが国では、効率的運用を可能にする家族省創設が求められると主張する。(聞き手=池永達夫)

さとう・はるひこ 1956年4月、福島県生まれ。81年、東北大学卒業。86年、中央大学経済学部卒業。2002年、中央大学経済学博士課程修了。同年、早稲田行動科学研究所研究員。05年、平成国際大学法学部助教授。13年、同大学教授。22年、同大学名誉教授。著書に「世界の社会保障制度と動向の比較―わが国への示唆―」「子供を持つために何が必要か、そして求められている支援とは?」など多数。

――先回の話で韓国は、体系的な社会保障制度を構築したということだったが、思想的な原流となったものは?

思想的というなら儒教文化をバックにした家父長的社会風土があるかもしれないが、やはり研究した成果だと思う。

韓国人というのは頭脳を使ってよく考える。その研究成果として、より体系的に進めていくのにこれだと結論を出したのだと思う。

国民全員を助けないといけない英国型モットーでやると税方式にならざるを得ない。しかし財源が限られる中、全国民をターゲットにすると広くカバーされる分、薄くなるのは必至だ。日本の自営業者の国民年金がいい例で、夫婦12万円ぐらいではやっていけない。

これがドイツ方式だと、一階部分と二階部分で12万円プラス二階部分の10万円とかもらったら何とかなる。それがドイツ方式の保険方式だ。

――英国の後からできたドイツの方が優れている?

韓国はそういう歴史を見て結論を出し、新方式を採用している。

安易な模倣ではなく、後から考えてつくり上げたところが優れている点だ。

――社会保障の原点は英国から?

そうだ。英国から社会保障制度は始まっている。

「ゆりかごから墓場まで」というキャッチフレーズの社会保障制度は当初、世界から注目された制度だった。

――英国の国力が劣っていったから、そういう制度が行き詰まりを見せたのか?

そうではなく、税方式で一階部分に二階部分を積み上げていくのはもともと無理で、税金には限界があるということだ。

税金というのは汎用(はんよう)性があって、いろんなものに使わなくてはいけない。その中の年金となると、いろいろ使って残った資金の中から使うことになるから薄くなる。

その対極にあるのが保険方式で、加入者が一定期間にわたって保険料を拠出し、運営主体がその額に応じた年金を給付する。これは自分たちで保険金を支払った企業は、自分たちで使うシステムだが、それが上乗せされるので保障はより一層、充実したものになる。

――そもそも保険制度はどこから始まったのか?

ビスマルク時代のドイツだ。

それは画期的なことだったが、当時は博打(ばくち)的に受け止められた経緯がある。だが、やってみた結果、効率的だし社会を豊かに導いている。

よく社会保障では最低ラインを保障するのか、文化的生活を保障するのかという議論があるが、ドイツの場合は文化的水準にまで保障する形だ。

税プラス保険の両方ある二階建て方式だから、双方をカバーできる。

一階部分の税方式で安全ネットとして最低生活ラインを保障し、二階部分の保険による積立方式を採用することで文化的水準の保障が可能になるというものだ。日本はそのドイツの真似をした。

ただし、その保険方式は少子高齢化にはものすごく弱い。保険はというより、保険の賦課方式は弱く積立方式は強い。

今から30年前の日本でも、賦課方式がいいのか、積立方式がいいのか議論した場合、積立方式だとインフレに対応できなくなるリスクが存在する。だから物価にスライドしていけるかどうかが問題となっている。

賦課方式だと物価+賃金スライドといって、物価や賃金上昇に応じて年金も上げていくことができる。給料体系に基づいて年金も上げていく。

だから30年前の当時は、賦課方式の方が優れていると考えられたが、少子高齢化になって、それをクリアするために若者の保険料を目いっぱい上げた経緯がある。

――端的にいって今の年金は持つのか?

普通に考えれば持たないが、何とかして持たせようとしているのが現実だ。

――三つの国の中で、少子高齢化に対応できている国は?

米国には年金はあるが、全国民をカバーする健康保険はない。その医療保険がないので、ひんしゅくを買っている。オバマ元大統領がやろうとしたが駄目だった。

――なぜできなかったのか?

移民国家の米国にはいろんな人種が混在する中、中間層や高所得者層は払えるが非常な貧困層など保険料を払えない人たちがいる。大きな落差を伴う格差社会では、どだい無理な話だった。

だから端的な解決方法はないが、韓国がやっている体系的に全体を掌握している保健福祉部方式を採用すれば、効率性とか効果は調べていくことはできる。

私は少子高齢化に対応する社会保障制度を構築するため、家族省というのを創ったらいいと思う。いろんな省があって年金と医療、介護と分かれて別々にやっていると無駄が出てくるが、家族省として一本化することで無駄をなくして効率的運用が可能になる。

少子高齢化という国家を揺るがす大きな波に翻弄(ほんろう)されないよう国民の生活を守るためには、年金や医療、介護などを個別に処理するのではなく、相互調整する機能構築が求められているからだ。


【メモ】専門家の強みは全体を俯瞰(ふかん)できる知的パワーにある。今回、社会保障の原点は「ゆりかごから墓場まで」という英国式制度にあったが、税でカバーする弱点をドイツの保険制度が補うことになったという指摘は大事なポイントだと思った。日本はそのドイツの真似をしたのだが、社会保障に関しては後発国の韓国が総合的に研究を重ね統合的制度の構築に至っているというのも驚きだった。

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