【持論時論】少子高齢化時代の社会保障(上)―平成国際大学名誉教授 佐藤 晴彦氏に聞く

賦課から積立方式に できる部門は変更を

シンガポール、韓国参考に

わが国の社会保障は、高齢化社会に伴う福祉や医療に多大な税金が使われ、一方で少子化に伴う現役世代の減少という財源確保が担保できない桎梏(しっこく)状況が続く。「少子高齢化時代の社会保障」をテーマに参考になる海外の取り組みを平成国際大学名誉教授の佐藤晴彦氏に聞いた。(聞き手=池永達夫)

さとう・はるひこ 1956年4月、福島県生まれ。81年、東北大学卒業。86年、中央大学経済学部卒業。2002年、中央大学経済学博士課程修了。同年、早稲田行動科学研究所研究員。05年、平成国際大学法学部助教授。13年、同大学教授。22年、同大学名誉教授。著書に「世界の社会保障制度と動向の比較―わが国への示唆―」「子供を持つために何が必要か、そして求められている支援とは?」など多数。

――国民健康保険では未納問題がある。

全体の約2割強が滞納世帯という健康保険事業の根幹を揺るがす問題だ。保険料未払いは自営業者が結構多かったが、最近ではサラリーマンも未払いが増えるようになってきた。

一時期、年金も国民健康保険も破綻すると言われていたこともあった。昔は、3分の2は加入者による負担で、3分の1だけ国庫負担による税方式だった。それから税部分を2分の1に引き上げて何とかクリアできるようになった。

その時は自民党が第2党で、民主党政権だった。そうなる前の公約に国民年金の税負担を2分の1にすることを掲げていた。

やり方を変えて消費税で何とかクリアした格好だが、財源の担保が不十分で、ひんしゅくを買ったということがある。

――根本的解決策は?

日本の公的年金にはサラリーマンの場合、国民年金と厚生年金の一階部分と二階部分があり、一階部分の国民年金の半分は保険料で一人一人に払ってもらっている。

二階部分である厚生年金の徴収は所得に応じて保険料を支払う比例方式だ。サラリーマンの場合は1回でこの二つのものを払っているが、自営業者の場合は一階部分だけを払っている。

だからサラリーマンと自営業者に共通になる一階部分を税方式にしたらいいと思う。そうすれば払わないよとはいえず、財源確保を担保できる。

――年金は?

日本の年金は賦課方式だ。これは働いている現役世代の人の保険料をプールし、それをそのまま65歳以上の人に給付するシステムだ。だから若い人たちの資金が高齢者に手渡される。

それに対して、少子高齢化に強いのは積立方式だ。

――賦課方式は破綻が目に見えている?

それをクリアするために、65歳以上の年金額を減らしている。

だから現在の年金額は少ない。そういうことで対応していて高齢者の社会保障はちゃんとやっているのかとなると、不十分だ。その意味で積立方式が参考になるものの、現在の賦課方式を積立方式に変えることはできない。現役世代に、賦課方式と積立方式の2本建てを同時に拠出させる訳にはいかないからだ。支払額が高くなり過ぎて現実的ではない。

――海外で参考になる国は?

世界を見るとシンガポールとか韓国、米国の公衆衛生は参考になる。

シンガポールの場合は日本同様、年金とか医療、介護保険とかはいじれないものの、住宅とか子育てや教育に関する他の部分は、自分の口座に積み立てたものから引き落とすことができるシステムになっている。そうした積立方式なので少子高齢化の影響は受けない。

シンガポールの社会保障制度は、労働者など加入者による拠出を基にした中央積立基金と政府の低・中所得者への各種補助措置を骨格として運営されている。

同基金は基金委員会が運用し、その運用益と拠出金により必要な給付が賄われる。加入者からすると拠出金は個人の口座に積み立てられる形となり、当該積立金は公的医療保険や介護保険の保険料支払いに充てられる。さらにこれら保険の補償対象外となる費用支払い等一定の目的のために支出することが可能であるほか、老齢年金給付の原資(保険料)にもなる。

この方式では、中央積立基金が年金、医療、介護保険で別々に使われるだけでなく、住宅購入や教育費などのために引き出すことが可能であり順応性に長けている。例えば若者が住宅を購入する際、それを積立金から引き下ろすことが可能だ。

日本の場合、年金は賦課方式だし、医療、介護保険は互助制度だ。互助制度というのは、自分が健康な時はその金を他の人に使ってくださいというシステムだ。だから健康な人は掛け捨て、病気の人はその金をもらって医療費に使用できる。

この制度を他の制度に変えることはできない。医療、介護、年金はもういじれない。だからそれ以外の部門に関しては積立方式に変えることが望ましい。

――その他の国で参考になるのは?

韓国も最近、全部を統括するシステムを構築するなど面白い取り組みを行っている。

それはどこどこが赤字を出せば、他のところから補填(ほてん)するようなことができるシステムだ。

社会保障では韓国は少し前まで遅れていたが、ここ10年の間に急に進んできた感じがある。

韓国では社会保障施策全般を保健福祉部が統括しており、社会保険もその傘下にある。財源は社会保険が保険料、社会扶助は税負担となっている。保健福祉部は、社会サービスバウチャー(引換券)の発行やそれぞれの部署をネットで結び統合的に管理できるネットワークを構築し、無駄なぜい肉をそぎ落とし弱者の捕捉と救済を速やかにカバーしようとしている。

――何が契機になったのか?

日本とか先進国の制度をよく研究して、自分たちなりの制度をつくり上げた格好だ。

だから社会保障や福祉に関しては後からきた後発国ながら、より一層いいものにつくり上げている「後の物が先になる」典型例だと思う。

――米国は?

米国は自己責任の精神と連邦制で州の権限が強いことが特徴だ。だから社会保障は、医療保障、高齢者の所得保障の分野においてはカバーされるものの、民間部門の果たす役割が大きく政府の関与度が小さい。

具体的に、公的年金(老齢年金、遺族年金、障害年金)と、医療保険(高齢者等の医療を保障するメディケアと低所得者に医療扶助を行うメディケイド)があるだけで、あとは民間保険に任されている。


【メモ】佐藤氏は最近、娘さんと一緒に散歩して、その効用に目覚めたという。プラトンやソクラテスが散歩しながら、議論し論考を進めたことは有名なエピソードだ。歩くと頭が活性化し、いろいろ考えがひらめいたり別の視点が見つかったりと、「足は第二の頭脳」とも言える。それが佐藤氏の机上の論考の限界を打ち破る、強力な援軍になることに期待したい。

 

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