台湾有事の可能性や必要な備えなどについて、台湾の専門家に聞いた。(聞き手=早川俊行、村松澄恵)

――ウクライナ戦争が台湾海峡情勢に与えた影響をどう見る。
ウクライナで戦争が起きてから、世界は一つだという認識が共有されるようになった。「欧亜連動」、つまり欧州とアジアは連動するという認識だ。欧州で戦争が起きたことで、台湾でも戦争が起こり得るという認識が生まれた。
また、台湾が得た教訓は、自分の国は自分で守る、自らが努力しなければ、国際社会は助けてくれない、ということだ。台湾政府が最後の一兵卒まで戦うとはっきり述べるようになったのは、ウクライナ戦争の教訓が念頭にあるからだ。
――日本でも「台湾有事は日本有事」という認識が広がってきた。
日本で台湾有事が議論されるようになったことは、台湾にとって心強い。ただし、台湾人が考える台湾有事と日本人が考える台湾有事は同じなのか。この点を明確にしないと、実際の有事では見解の相違が生じる恐れがある。
例えば、台湾本島から遠く離れた南シナ海の東沙島を中国が包囲した場合はどうか。東沙島は台湾領土の一部である以上、これは台湾有事だ。東沙島の警備隊が戦って一人でも亡くなれば、これは戦死になる。この時、日本と米国は台湾有事と認定するのか。日本政府はおそらく東沙島包囲だけなら台湾有事と認めないだろう。
また、国際社会が台湾有事に介入する場合も、台湾は米国や日本との防衛関係がなく、共同演習などをやったことがない。協力関係が欠如した状態で、有事の支援はすぐにはできない。日台間で話し合っておくべきことは多く、議論を急ぐ必要がある。
――日本が果たすことのできる役割は。
日本は部隊を派遣せずとも台湾防衛を支援できることがあると思う。例えば、ウクライナ戦争ではロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」がミサイル2発で撃沈された。強力な防空システムを持つモスクワになぜミサイルが命中したのか。その直前に周辺空域を飛行していた米軍の電子戦機がモスクワの防空システムを遮断した可能性が指摘されている。
与那国島では自衛隊の配備が進められているが、報道によると電子戦の装備も配置されるようだ。ウクライナ戦争の例を踏まえ、与那国島の防衛強化は台湾にとって大きな戦略的意味を持つ。日本が国境の内側から支援できる方法は他にもいろいろある。やはり日台で話し合っておく必要がある。
――最も可能性の高い台湾有事のシナリオは。
基本型は「混乱」「麻痺(まひ)」「攻撃」の3段階だ。
第1段階は、偽情報などを流して台湾市民を混乱させる、いわゆる「認知戦」だ。
第2段階は、中国軍を監視するレーダーを破壊して台湾の目を奪うことだ。軍事アセットだけでなく、空港や港湾、ダム、道路、原発、病院などの重要インフラも破壊する。
第3段階では、ミサイル攻撃を加えた上で上陸戦を行う。
これはあくまで基本形であり、他にもスパイによる破壊活動などさまざま組み合わせる可能性がある。