米国では、覇権主義的な動きを強める中国が安全保障上の最大の脅威だとして、超党派での対応が進められている。トランプ前政権時代に米外交の対中シフトに取り組んだ元国務省中国政策首席顧問のマイルズ・ユー(中国名・余茂春)氏に、米国の対中政策やアジアの安全保障などについて聞いた。(聞き手=ワシントン・山崎洋介)

――昨年10月にバイデン政権が国家安全保障戦略を発表したが、その対中認識をどう評価するか。
トランプ政権と同様に、中国を米国にとって最大の国家安全保障上の脅威と位置付けている。本質的な認識に変わりはない。
ただ、われわれと異なるのは、オブラートに包んだ言葉を用いていることだ。例えば、われわれは中国を「脅威」としたが、彼らは「挑戦」とした。われわれの対中政策は、政府や社会全体で中国共産党と戦うというものだったが、彼らは中国と「競争」するとしている。
――トランプ政権と比べ、表現が弱まっているのはなぜか。
バイデン政権は多くの相反する優先事項を持つからだ。気候変動問題が最大の問題だと考えているならば、中国が最大の脅威であるという認識とは相いれない。気候変動は長期的な課題だが、中国の問題はより差し迫った課題だ。
――昨年11月の米中首脳会談をどう評価するか。
バイデン氏は習氏に「台湾を侵略するな、さもないとひどい目に遭うぞ」というレッドラインを示した。バイデン氏は、これまでも中国が台湾を侵攻した場合、米軍を関与させると何度も言っているので、中国の習近平国家主席に対する非常に強いメッセージとなったはずだ。
――米国が台湾防衛を明言しない「戦略的曖昧さ」を見直すべきだとの声も上がっている。
そもそも戦略的な曖昧さがあるとは思っていない。戦術的な曖昧さはある。われわれは中国側に、何隻の船がどれくらいのスピードで関与するのかなどと伝えることはできないからだ。
戦略的には曖昧さはない。われわれは常に台湾を守ると言ってきた。問題は、どう関与するかということだ。
米国の台湾政策は長年、超党派で行われてきた。特に、中国共産党の侵略から台湾を守るという米国の戦略的意図に関して民主党と共和党は合意している。
――あなたは昨年7月、北大西洋条約機構(NATO)とインド太平洋地域の民主主義国家が参加する新たな軍事同盟構想「北大西洋インド太平洋条約機構」を提唱した。
米国ではこの6、7年間で、ロシアではなく中国が米国や世界にとって安全保障上の最大の脅威であることが党派を超えた共通認識となっている。そのため戦略的な焦点を欧州から、アジア太平洋へと移してきた。
トランプ政権は、米国が欧州に引き続き多くの資金を支払うことはできないため、NATO加盟国に対し負担を増やすべきだと伝えてきた。彼らは当初は消極的だったが、徐々に中国からの脅威について米国の考えに同意してくれた。
昨年6月のNATO首脳会議では、日本の岸田文雄首相を含むアジア太平洋地域における主要国首脳を招待し、戦略概念の文書の中で、中国の脅威について言及した。こうした中、NATOのアジア拡大を望む声がある。
アジアにはNATOのような多国間同盟はなく、米国との2国間同盟が結ばれているだけだ。そこで、NATOをアジア太平洋地域に拡大すれば、その規模が拡大するだけでなく、多国間集団防衛システムという非常に優れた同盟の仕組みも拡大することになる。