中国では11月下旬から、習近平政権の「ゼロコロナ」政策に対し白紙を掲げ抗議するデモが各地で起きた。その背景について、1989年の天安門事件時に抗議運動に参加し、現在は米国を拠点とする中国民主化支援組織「公民力量」の創設者である楊建利氏に聞いた。(聞き手=ワシントン・山崎洋介)
――天安門事件の時と今回の抗議デモとの違いは。
われわれと異なる時代に生まれ育った今回の抗議デモ参加者は、高い生活水準を享受し、世界との交流が増え、民主主義や人権、特に個人の権利とは何かということをより理解している。
われわれは天安門広場で政治改革を求め抗議したが、中国共産党の退陣を要求することを考えていた人はほとんどおらず、政権を転覆する意図や計画は全くなかった。しかし、今回の抗議デモを行った世代は、自分たちが直面しているすべての問題の根本原因が中国の政治体制、つまり中国共産党や習氏による独裁だということをよく理解している。だから、ゼロコロナ政策に抗議するだけでなく、より直接的に中国共産党や習氏の退陣を要求したのだ。
また、今はインターネットや携帯電話など通信技術がある。もちろん政府もこれを弾圧に利用しているが、抗議デモを行った人たちはインターネットを組織化のツールとして使うとともに、抗議活動の写真やビデオを、素早く世界に提供し、国際社会の注目を引くことができるようになった。
さらに、今回の運動には主要なリーダーがいない。この世代は一般に親の世代が耐えなければならなかった経済的苦難をあまり経験せず、最近まで政治的な活動を行った人はほとんどいなかったからだ。また、政府によって特定され、処罰されるリスクを避けるためでもある。
――近い将来、再び大規模な抗議デモが起きると思うか。
そう思う。第一に、今回の抗議活動によって人々が中国共産党や習氏に対して抱いている恐怖心が薄れたからだ。たとえ政権による厳しい弾圧政策があったとしても、目的を遂げることができると人々は理解するようになった。
第二に、国民の不満の根本的な原因は、何も解消されていないからだ。中国では、新型コロナウイルスに対する十分な備えがなかったため、ほぼすべての都市で感染が拡大しており、今後数週間から数カ月の間に死者が急増することになる。同時に経済状況も悪化することで、人々に絶望感を与えることになるだろう。
今回のきっかけとなった新疆ウイグル自治区で起きた火災のような悲劇が再び起きれば、次の抗議デモの引き金になる可能性がある。
――習氏は中国の政治体制の優越性を宣伝してきたが、今回の抗議デモはその取り組みにどう影響を与えるのか。
習氏は、新型コロナへの対応において、その成果を中国の政治体制の優越性と結び付けた。東洋が台頭し、西洋が衰退しているという考えまでも売り込んだ。
しかし、習氏が過去3年間行ってきたことのほとんどはすべきでないことだ。例えば、習氏は都市を閉鎖し、人々を家に閉じ込めて囚人のようにした。一方、感染の大流行に備え、海外産のワクチン接種を進めるなどすべきだったが、しなかった。
国民がそれを理解していても、何もすることができない。これは、むしろ中国の政治体制の劣位性を示している。リーダーがやるべきでないことに没頭していても、それを抑制する手段をほとんど持たないからだ。