権力一元化で安定危うく 中国の習一強体制(上) アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司氏に聞く

経済政策 専門家が不在 共産党 「死の道」へ驀進?

10月22日、北京の人民大会堂で、中国共産党大会の閉幕式から腕をつかまれて退席する胡錦涛前総書記(中央)(AFP時事)

5年に1度開催される中国共産党大会が10月下旬閉幕し、今後5年間の新体制が決まった。異例の3期続投を果たした習近平国家主席は「習一強体制」構築に成功したかに見える。だが「硬い木は折れ、柳に雪折れなし」との言葉通り、強権は時にもろさを露呈させる。中国は今後、どこに向かうのかアジア太平洋交流学会会長の澁谷司氏に聞いた。今回と次週の2回にわたって掲載する。(聞き手=池永達夫)

――5年に1度開催される中国共産党大会が終わった。今後、中国の舵(かじ)はどう切られていくのか。

10月22日、中国共産党第20回全国代表大会が終了し今後5年、第20期の習近平総書記を中心とする新しい最高指導部(政治局常務委員)が誕生した。

7人の常務委員は習近平(留任)・李強(新)・趙楽際(留任)・王滬寧(留任)・蔡奇(新)・丁薛祥(新)・李希(新)の各氏だ。

習氏が、常務委員を忠実な部下で固めたことで、中国は過去数十年のエリートによる権力分立の後、独裁へ逆戻りしつつある。

常務委員会メンバーは、奇数で構成される。最高意思決定機関である以上、評決で賛否半々という身動きが取れない構造では意味がないからだ。

だが、常務委員会を習氏のイエスマンで固めたことで、最高意思決定機関は習氏の意向次第でどうにでもなるような性格を帯びてくる。2期目の習政権時代でさえ、常務委員会は各常務委員の意見集約の場ではなく、習氏の意向をうかがう「皇帝と臣下」の関係になっていたとされるが、その性格はますます濃厚になる。

ただ権力の一元化は、逆に習政権の安定を危うくするリスクもはらむ。柔らかいゴムは力を吸収するが、固い器は割れやすい。強さは同時にもろさを内蔵しているものだ。習一強体制の弱点はそこにある。

――ただ、すんなり習一強体制が決まったとは思えない。

今回の共産党規約には、習氏への絶対的忠誠を意味する「二つの確立」のほか、絶大な権力を持つ「党主席」制の復活や「領袖(りょうしゅう)」の称号はいずれも盛り込まれなかった。

考えられるのは、共青団や江沢民系列の「反習派」切り崩しの取引材料として使われた可能性があるということだ。

――党大会最終日の10月22日、海外メディアが入った時、それを見計らったかのように胡錦涛前主席が「強制退席」させられた。

まずスタッフが、突然、演壇上の胡前主席に近づき、前主席の文書を取り上げた。その後、胡前主席を会場から追い出そうとしている。しかし、前主席は席から離れようとしなかった。

次に、スタッフが胡前主席を後ろから持ち上げようとしたが、これも前主席は拒否している。

胡前主席の机の上にあった会議資料は、左隣に座っていた栗戦書の机の上に移動していた。そこで、栗戦書は資料を職員に渡した。そして、スタッフは前主席が席を立つよう説得したのである。前主席は立ち上がり、職員と口論になった。

一度は栗戦書氏が立ち上がったが、横にいた王滬寧氏が後ろから、栗氏に邪魔をするなという合図を送っている。

スタッフが胡前主席をさらに説得しようとしたが、前主席は再び座ろうとした。だが、結局、前主席は、スタッフに腕を脇に入れられて退場させられている。

胡前主席が、習近平主席とすれ違ったとき、前主席は習主席に向かって言葉を掛けた。それに対して、習主席は2度うなずいている。

その後、胡前主席は手を伸ばして李克強首相の肩をポンとたたき、会場を後にした。前主席退場までの全プロセスは1分余りだった。

このシーンは、党大会の閉会式を取材するために記者たちが北京の人民大会堂に入場してきた直後だった。2300人以上の党代表が党規約に習近平の「核心的役割」を盛り込むことを全会一致で決議する前に発生している。

一説によれば、習氏と胡氏の間で次の合意ができていたとされる。すなわち、新人事では共青団から李克強・汪洋・胡春華氏の3人が政治局常務委員に就任するという約束だ。

ところが、会場のリストには、その3人が全員とも名前がなく、替わりに「習派」の名前が記されていた。

これだと最後の土壇場で、約束を反故(ほご)にしたリストの差し替えがあったことになる。

中国では「騙(だま)すより騙される方が悪い」とされる。

習氏は「反習派」への報復として、海外メディアが入った時を狙い澄まし、世界に知らしめるように、胡氏に対し最大の屈辱を与えたと思われる。胡氏にとって、人生最大の辱めだったのではないか。

よく知られているように、中国人にとって「面子」は、時に命よりも大切なものだ。しかし、過剰な報復措置を取れば、党内からの反発がますます強くなるリスクがある。それが、結局、習氏に跳ね返る恐れもある。

そうでなくても、中国経済は悪化の一途を辿(たど)るばかりだ。本来ならば、今は経済を第1に考える必要がある。

来春には政治局常務委員ナンバー2の李強氏が新首相に就任する。副首相には丁薛祥氏が就任する模様だ。

李強、丁薛祥氏ともども、経済とは無関係の経歴だ。さらに中央政府で働いた経験もない。李強氏は上海市トップで、丁薛祥氏は党中央弁公庁主任だった。素人に経済を任せて大丈夫なのかという素朴な疑問が湧いてくる。

――24人の共産党政治局委員に金融の専門家が入っていない。

金融は経済の血流を還流させる心臓のようなものだ。その重みを認識していないこと自体、3期目となる習新政権の性格が理解できる。

党大会中、突如、今年第3四半期GDPの公表を延期した。だが、党大会が終わると間もなく、その数字を発表している。前年同期比で3・9%、前期比で同じく3・9%だ。

これが修正していない正しい数字であれば、決して悪くはない数字だ。

そうだとすれば、そのまま公表すれば良かっただけの話だ。

それをあえて、公表を延期したのは、数字がかなり悪かったからだ、と勘繰られても仕方がない。

経済破綻が中国共産党政権を崩壊させないとも限らないだろう。

今まで何度も中国経済崩壊論が出たが、それを救ってきたのは欧米や日本からの資本が流入し続けたからだ。

だが近年、中国の「赤い野心」を読み取った欧米やわが国では、政界だけでなく財界も警戒心を抱くようになってきた。不動産バブルの崩壊や景気減速、さらにロシアによるウクライナ侵略に米国の大幅な金利引き上げが重なる中、外国投資家の中国離れがシリアスになっている。

やはり、習氏は中国共産党「死の道」への“加速師”なのかもしれない。


【メモ】異例の習総書記3期目を迎える中国に対し澁谷氏の懸念は、「素人に経済を任せて大丈夫なの」というものだった。鄧小平のすごみは、なりふり構わず経済再建に驀進(ばくしん)してきたことだ。政治を優先した毛沢東の負の側面を熟知している鄧氏ならではの決断だ。その鄧氏の遺産が政治優先へ舵を切る習氏の続投で、食いつぶされてしまうリスクが高まっている。

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