台湾南部の高雄市にある廟(びょう)(寺社に相当)「紅毛港保安堂」に9月24日、日台友好に尽力した安倍晋三元首相の功績をたたえ、等身大の銅像が建てられた。廟の責任者、張吉雄氏はこのほど、世界日報の取材に応じ、安倍氏が生前「台湾有事は日本有事」と強調するなど、安全保障面を含め日台友好に寄与したことを高く評価した。(豊田 剛)

銅像は安倍氏と同じ高さの175㌢。スーツ姿で右手を挙げている穏やかな表情だ。張氏は銅像建立に併せて保安堂内に庭園を整備した。銅像の隣には台湾北東部で採取した天然石の石碑が置かれており、「台湾加油」(台湾頑張れ)という安倍氏の揮毫(きごう)が書かれている。
「台湾と日本は歴史的に緊密な関係にあるが、中でも安倍元首相は生前、台湾の国際組織への加盟を支持するなど台湾に対してよくしてくれた。突然の訃報に接し、献花しに日本に行きたい台湾人はたくさんいるが、新型コロナウイルス感染の影響で自由に行き来できない状況が続いていた。そこで、台湾人が献花できる環境を整えたいと思い、銅像の建立を決めた」
こう話す張氏は、「決して暫定的なものではなく、安倍元首相の日台友好に対する貢献と日台友好のシンボルとして永遠に残したい」と強調。中国による侵略の危険性にさらされているのは台湾も日本も同じだ。安倍氏が「台湾有事は日本有事」と発言し、「台湾の人々は勇気づけられた」と高く評価した。

「国葬までに間に合わせて銅像の除幕式を行いたい」と、計画からわずか2カ月で完成。建設に必要な約500万円分の寄付もすぐに集まった。
除幕式には立法院議員や地方議員が与野党を問わず参加してくれた。「安倍元首相は台湾では党派や思想を超えて慕われている」という。除幕式以来、台湾の人々だけでなく、台湾在住の日本人、日本からはるばる訪れる地方議員の参拝が絶えない。
地元の若い看護師も参拝に来ているという。張氏は「安倍元首相は、新型コロナウイルスのワクチンを台湾に供給してくれた。また、台湾パイナップルの消費促進など、生活に関わることを含めて応援してくれた。その恩義を忘れない」と力を込めた。
セキュリティー面でも余念がない。庭園には赤外線センサーを取り付け、不審な動きがあればすぐに警察官が駆け付けるだけでなく、定期的に巡回しており、「政府を挙げて応援してくれていることを実感」している。
日本では国葬を巡って一定の反対勢力があったことを伝えると、張氏は「信じられない」と驚きを隠さない。台湾でも、中国との統一を支持する統一派の意見を抑えるには相当の労力がいると説明。台湾の世論づくりには日本の支えが必要だと訴えた。
保安堂は、太平洋戦争でバシー海峡に沈んだ旧日本海軍の第38号哨戒艇を祭ることで知られており、親日派の台湾人が多く訪れている。