――なぜ南モンゴルの問題は取り上げられることが少ないのか。
南モンゴルで虐殺が始まった1966年は冷戦の時代だった。国際社会は注目のしようがなかった。だが、現在でも国際社会はこの問題に大きな関心を抱いていない。時間が経(た)ったからだという声もあるが、オスマン帝国による「アルメニア人虐殺」は1世紀経っても、米国やドイツなどは決議を採択するなど関心を寄せている。南モンゴルで起きたことは100年も経っていない。
最近、ウイグルでの人権問題に国際的な注目が集まるようになった。ウイグルで起こっていることは過去に南モンゴルで行われたことだ。なぜ南モンゴルの問題に海外の言論界は無関心なのか。ウイグルの土地には石油があり、チベットの土地には水資源がある。それらが南モンゴルにはないからか。中国が輸出しているレアアースの大半が南モンゴルの土地から採掘されたものだが、世界はそれを知らないのか。
――世界南モンゴル会議のチェ・ムンへバヤル副会長がモンゴルで逮捕されたそうだが。
チェ・ムンへバヤル副会長はモンゴル最高の国家勲章の一つ「北極星勲章」を得たジャーナリストだ。2014年にモンゴル国に滞在する南モンゴル人活動家の強制送還や20年のモンゴル語教育の廃止に反対する運動をしており、昨年11月に副会長に就任した。
今年2月になってモンゴル国で逮捕された。6月の一審、9月の二審ともに「中国とモンゴル国の関係を損なった」とし、禁錮10年の判決が下された。
われわれはモンゴル政府に彼を釈放してほしいという旨の書簡を送ったが、返事はなかった。米国の人権団体も書簡を送ったが、同様に返事はなかった。
日本の「南モンゴルを支援する議員連盟」が10月に「当該裁判の進捗(しんちょく)状況について重大な関心を持って注視していく」との声明を出したことは一つの希望だ。
――会長自身はどのような迫害を経験したのか。
私は1981年に漢民族を南モンゴルの土地に移住させる計画に反対する学生運動のリーダーをした。その際に、中国当局は逮捕しなかったが、「認罪書」を書くことと、モンゴル人の仲間を売るように言われた。当時の中国は仕事は自分で見つけるものではなく、国から与えられるものだったので、従わないと仕事ができなかった。
私は間違ったことはしていないし、誰かを売ることもできない。従わなかったので仕事がもらえなかった。後に自分で本屋を経営したが、それも潰(つぶ)された。
91年に徒歩でモンゴルに亡命した。当時私は監視されていたので、上海に行くなどと言って周りをだまさないといけなかった。友人にも誰がスパイなのか分からないので、言えなかった。
他にも、中国にいた時、2人の警察官が当時3歳だった私の娘の幼稚園に行き、娘に「あなたのお父さんは何をしているの?」「昨日おうちに来た人は誰?」というような質問をした。質問があるなら私に直接尋ねればいいのに、あえて質問に答えられるはずもない3歳の娘のところへ行った。それは、中国共産党からの「反抗するな。私たちはいつでもあなたの娘の場所が分かるのだ」という脅迫だったのだろう。
中国は少数民族の問題を台湾と同様に「核心的利益」だと主張している。習近平総書記(国家主席)は11月16日に行なわれた中国共産党大会開幕式で提示した政治報告で、民族政策について「中華民族共同体意識の強化を主軸とする。民族の団結・進歩に向けた事業を全面的に推進する」と強調した。同化政策は習氏の3期目で一層進むことが予想されている。