中国当局が進める少数民族の同化政策により、「民族浄化」が加速している。このほど亡命先のドイツから来日した内モンゴル自治区(南モンゴル)における自決権確立を目指す国際連帯組織「世界南モンゴル会議(南モンゴルクリルタイ)」のショブチョード・テムチルト会長は、本紙のインタビューに「われわれは存亡の危機にある」と窮状を訴えた。(聞き手=宮沢玲衣、辻本奈緒子)
――南モンゴルで何が起こったのか。
モンゴル人の中国政府への抵抗は第2次世界大戦前からあり、大戦後も知識人によって続けられた。1966年からは中国共産党政権によるジェノサイド(集団虐殺)が始まった。
虐殺にはいろいろな方法があった。例えば、熱い鉄を押し付けたり、服を着せずに外に出して凍死させたりなどだ。私の祖父は暴力を振るわれた後に、頭に釘(くぎ)を打たれた。本当にいろいろな方法で人が殺されていった。正確な数字は分からないが、80年の「中華人民共和国最高人民検察院特別検察庁」の起訴書では34万6千人超が迫害され、1万6222人が亡くなったとされている。
――現在の状況は。
習近平政権下の2020年、小中学校で行われていたモンゴル語教育が制限された。政府のやり方に従わなかった人は解雇、逮捕された。当時約5000人が捕まった。職を失えば家族を養う方法がないため、表立って反抗することはなくなったが、不満はたまっている。共産党は自治区として自治権を認めていたはずなのに、同化政策を推し進めている。中国を自分の国と思えるはずがない。
われわれは反対運動を行わないと存在が消されてしまう。既に南モンゴルの土地に住むのは8割以上が移住してきた漢民族となった。当局は土地だけでなく言語までも奪おうとしている。私たちは存亡の危機にある。中国は当初、甘い顔をしていたが、徐々に本当の姿を見せてきた。われわれが中国に従っても同化させられるだけだ。他に選択肢などない。
世界に反中国の新しい流れが出来始めている。私はそこに期待している。
――習近平総書記(国家主席)が3期目入りした。
習氏は漢民族への同化政策をさらに進め、モンゴル人ではなく中国人にしようとしている。習氏は今年7月、中華民族としての共同体意識を人々の心の中に「鋳牢」(鋳造するようにかたちを確立させる)するという政策で各民族に対し強く中国化を進めると話した。
習氏は毛沢東時代に回帰するようなことをしているので、毛沢東のように厳酷な統治を行うのではないか。モンゴル人の生活はさらに苦しくなっていくだろう。世も末だと非常に悲観的な人もいる。反抗すれば、潰(つぶ)されるからどうすることもできないという無力感がある。
――ロシアの国力低下は南モンゴルに影響するか。
歴史的にモンゴル国はロシアの影響が大きい。最近は中国の浸透工作によって、モンゴル国は中国と接近したが、どのような形であれモンゴル人の国が存在していることは南モンゴルにとって心理的な支えになっている。今まで中国の北への拡大を阻んできたのはロシアだが、国力が弱まるとどうなるか分からない。中国は今でもモンゴル国の土地やロシアのハバロフスク地方の一部などは中国のものだったとしている。