世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の解散命令請求に向けた質問権の行使や、被害救済法案に対する与野党の議論が進んでいる。日本で政教分離は正しく理解されていないと指摘する杉原誠四郎氏に宗教と政治の観点から現在の政界の動向について語ってもらった。 (聞き手=政治部長 武田滋樹)

――家庭連合に対する解散命令請求に向けた質問権の行使、また被害救済法案の中身が政界の一つの焦点になっている。
その先鞭(せんべん)をつけたのは河野太郎消費者担当相だ。8月10日の就任直後から精力的に消費者庁の「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」(以下、検討会)を立ち上げた。衆院予算委で本格的議論が始まる10月17日に合わせるように報告書を出して、旧統一教会に対し「解散請求も視野に入れ、宗教法人法第78条の2に基づく報告徴収及び質問の権限を行使する必要がある」などと提言した。
――いわゆる河野検討会の何が問題か。
委員会の人選から、審議の進め方、報告書の内容に至るまで問題だらけだ。
旧統一教会の霊感商法の被害が指摘されているので、消費者庁として調べて被害があれば救済しましょうというのならば理解できるが、そのためには客観的な人を選ばなければならない。
しかし河野担当相は、トロイの木馬のように、旧統一教会の解散を目指す全国霊感商法被害対策弁連(全国弁連)の紀藤正樹弁護士や日本脱カルト協会の代表理事を務める西田公昭立正大学教授、野党議員時代に旧統一教会に批判的な立場から霊感商法問題に取り組んできた菅野志桜里弁護士を行政府の対策検討会に引き入れ委員に就任させた。これは明らかに公正でない人事だ。
実際に紀藤氏や菅野氏が検討会の議論を主導し、全国弁連からは旧統一教会に対する損害賠償請求訴訟を35年間も続けてきた郷路征記弁護士を招き、教理内容にまで立ち入った資料に基づいた説明を受けた。
その半面、旧統一教会の反論や弁明は一切聞いておらず、宗教法人の基本権剥奪に当たる解散命令の請求に言及するのに、公平な立場の憲法学者や刑法学者、宗教学者に意見を求めてすらいない。行政庁の審議としては不当であり、法の支配、法の公正性において大いに問題だ。
――報告書の内容はどうか。
明らかに消費者庁の所管外の提言であり越権行為だ。当時、旧統一教会が解散命令を出すに値すると主張していたのは全国弁連であって、その主張をそのまま報道する一部マスコミだった。公的に断定されておらず、いってみれば容疑の段階でしかなかった。
それにもかかわらず、河野検討会はその報告書を通じて、全国弁連の主張に政府のお墨付きを与えた。大衆迎合的なポピュリズム政治の典型といえる。自民党と旧統一教会との「接点」探しに油を注ぐ結果となり、自民党までも大混乱に陥れた。河野担当相の政治的犯罪とも言うべき重大な過失だ。
岸田文雄首相も、河野担当相肝いりの政府検討会の提案なので無視はできない。予算委で「閣内不一致」と追及されかねない。結局、報告書提出の当日(10月17日)に旧統一教会への調査(質問権の行使)を文科大臣に指示し、当初は解散請求の「要件に当たらない」としていた民法の不法行為も一夜にして「(要件に)入り得る」と、報告書の提言に沿った解釈に変えた。
――報告書は、霊感商法等の被害救済のため、マインドコントロール論に基づいて取消権の範囲拡大なども提言している。
マインドコントロールというのは、宗教を信仰している信者の心の状態に対して信仰していない人が外から言っている言葉だ。信仰に基づく献金や寄付まで、マインドコントロール下にあって「合理的な判断ができない状況」のためだというのは、あまりにも僭越(せんえつ)だ。どうして旧統一教会の信仰状態だけをマインドコントロールと定義できるのか。他の宗教にも拡大適用すれば、全ての信仰がマインドコントロールだということになる。これは信仰の自由を脅かす大変な暴論だ。