
オーストリアのファスラベント元国防相は11日、ウィーンで開催された西バルカン諸国と欧州統合問題に関する国際会議に参加した際、本紙とのインタビューに応じた。(聞き手=ウィーン・小川 敏)
――ウィーンでの会議の意義は。
ロシアのウクライナ侵攻が続いている時、このような会議が開催されることには意義がある。欧州の安全保障問題は大きな変化の時を迎えている。特に、西バルカン諸国は歴史的に欧州の中でも最も不安定な地域だ。そこで生じた民族紛争は欧州全土ばかりか地中海東部地域の近東にまで多大の影響を与えてきた。その意味で、西バルカン諸国の情勢を理解することは大切だ。
――ロシアのウクライナ侵攻の教訓は何か。
教訓は、軍事力を行使して国境線を変更する軍事的試みは失敗したこと、そして将来も成功することはあり得ないということだ。欧州は統合と多様性のあるシステムを構築し、各民族の特徴を維持する政治、社会体制を築いていくことが大切だ。その観点から、欧州連合(EU)は西バルカン諸国の安定問題では大きな役割を担っている。同時に、北大西洋条約機構(NATO)もバルカン諸国間の民族的な紛争、あつれきを防止し、対立に代わって協調を促進することだ。
――西バルカン諸国の多くはEU加盟を模索してきたが、まだ明確な加盟交渉の時期すら決まっていない。
EUはロシアと戦争下にあるウクライナを加盟国候補に指定することで、欧州統合に参加することがいかに重要かを示した。ウクライナ危機は西バルカン諸国のEU加盟も同じように緊急課題であり、もっと重要かもしれないことを示している。西バルカン諸国の諸問題の解決はEUとの大きな政治的な統合の中でしか見いだすことができないからだ。
――ロシアのプーチン大統領はウクライナの軍事攻勢で守勢に立たされ、核兵器の使用も考えているといった情報が流れている。
ロシアの指導者は核兵器を使用した場合、どのような結果になるかをよく知っている。核兵器を使用してはならないというタブーを破った場合、ロシアは世界から孤立し、同盟国からもロシアを排斥する動きが出てくるだろう。プーチン大統領の置かれた状況についていろいろ臆測が流れているが、核兵器問題でははっきりとしている。彼はその意味で合理的な人間だ。
――ウクライナ侵攻後、スウェーデンとフィンランドは中立主義を放棄して、NATO加盟を決定した。オーストリアも同じ中立国だが、将来、NATOに加盟するといったことは考えられるか。
わが国の中立主義は北欧の中立国とは法的立場で異なっている。わが国の中立主義は憲法で明記されている。中立主義を放棄してNATOに加盟しようとすれば、憲法の改正が必要だが、そのためには議会の3分の2の支持がなければならない。現実は政治的に見て難しい。
――日本もウクライナ情勢について強い関心を示している。アジアの安保情勢をどのように見ているか。
今回のウクライナ危機からの教訓は1カ国だけで国を守るということは難しく、同盟国との連携でしか安全は守れないということだ。日本の場合、同盟国との連帯でしか自国のアイデンティティーと安全を守ることはできない。極東、南アジア地域では中国が急速にその影響力を拡大してきている。日本を取り巻く安保状況は急変している。日本にとって最も重要なことは、同盟国との連携強化だ。