中国当局が気功集団「法輪功」学習者や新疆ウイグル自治区のウイグル人に対して行う弾圧の中でも、とりわけ残虐性が高いのが強制的に臓器を摘出する「臓器狩り」だ。この問題を長年調査してきたカナダの国際人権弁護士デービッド・マタス氏がこのほど来日し、本紙のインタビューでその実態を語った。(聞き手=早川俊行、村松澄恵)
――中国で「臓器狩り」が行われるようになった経緯は。
中国政府による臓器の収奪は、1980年代に死刑判決を受けた囚人から臓器を調達することから始った。当初は死刑執行直後に臓器を摘出していたが、その後、臓器摘出による処刑へと変わった。これが最初のシステムだ。だが、90年代終わりにかけて幾つかの変化があった。
一つ目は、死刑の減少だ。死刑を宣告する裁判所のレベルが上がったことで、死刑の数が減った。また中国政府は「死刑囚は罪滅ぼしで自発的に臓器を提供している」と主張していたが、外部から批判が出た。中国政府は最終的に死刑囚からの臓器摘出をやめると発表した。
二つ目は、中国が社会主義から資本主義にシフトし、医療システムに政府の資金が来なくなったことだ。それにより病院は新たな収入源が必要になった。そこで臓器には中国だけでなく世界中から無限の需要があることに目を付けた。
三つ目は、法輪功学習者の大量拘束だ。92年に発足した法輪功は当初、健康に役立つ体操として、共産党も奨励していた。だが、99年には学習者が党の推定で7000万人以上に増加し、当時6000万人だった共産党員を上回った。危険を感じた共産党が法輪功を禁止したところ、大規模な抗議運動が起こり、それが大量拘束へとつながった。
この三つの出来事が重なり、臓器を供給する新たなシステムが構築された。つまり、臓器の供給源が死刑囚から法輪功学習者に置き換わったのだ。共産党は学習者を人間以下の存在とみなして恣意(しい)的かつ無期限に拘束するため、臓器を大量に供給することが可能になった。
当初は法輪功学習者は死刑囚の代替だったが、臓器は莫大(ばくだい)な利益をもたらすことが分かると、病院は新たな移植施設の建設など投資を開始した。これにより、臓器売買は中国で全く新しい産業になったのだ。
――現在はウイグル人が臓器狩りの標的になっている。
2000年代前半は数十万人の法輪功学習者が拘束されていたため、臓器は無限にあるかのように思われた。だが、今は逮捕される学習者が少なくなり、臓器の供給源が大幅に減った。そこで17年からウイグル人の大量拘束が始まった。完全にではないが、実質的にウイグル人が法輪功に代わる臓器の供給源となったのだ。
――臓器を希望する患者は普通、適合するドナーが現れるのを待たなければならないが、中国では数週間または数日で見つかると聞く。
中国では「患者がドナーを待つ」のではない。その逆だ。「ドナーが患者を待つ」のだ。もしあなたが中国で臓器移植を受けたければ、いつでも予約できる。それに合わせて血液型や組織型、臓器の大きさが一致する囚人が殺されるだけだ。
囚人たちは既に血液や臓器の検査を受けさせられており、移植に必要なデータがリスト化されている。患者が到着すると、医師はリストに基づいて患者と囚人をマッチングする。
患者に適合した臓器を持つ囚人の刑務所にはバンが送られる。囚人は薬漬けにされ、バンの中で臓器が摘出される。臓器は病院に運ばれて患者に移植される一方、遺体は刑務所に残され、火葬される。