トップオピニオンインタビュー地域に寄り添う高齢者支援 社会福祉士 西垣 邦洋氏に聞く

地域に寄り添う高齢者支援 社会福祉士 西垣 邦洋氏に聞く

見守りは住民協力 不可欠 独居増 介護事業追い付かず

健康 自分で守る意識も重要

人生100年時代の到来が叫ばれる一方で、少子高齢化が進み一人暮らしの独居老人が増えている。そうした中、社会福祉士として地域に寄り添いながら高齢者に向き合っている若者がいる。札幌市内にある地域包括支援センターの職員として勤務する西垣邦洋さんに仕事の内容や高齢化社会への展望を聞いた。

(聞き手=湯朝 肇・札幌支局長)

にしがき・くにひろ 1995年札幌市生まれ。2018年に北海道医療大学看護福祉学部卒業。同年、流通と地域のつながりを知るため地元コンビニエンスストアに入社。その後、20年に札幌市包括支援センターに勤務。また地元FMコミュニティーラジオにも出演。Mr.JAPANの全国大会にも出場するなど幅広い活動を展開中。

――現在は札幌市内の地域包括支援センターの職員として働いているそうですが、どのような仕事をしているのですか。

地域包括支援センターでは、主に四つの業務があります。一つ目は65歳以上の高齢者のための総合相談。例えば、高齢者の方が病気になった場合どういう病院に行けばいいのか。あるいは親が認知症になったら、どう介護をしたらいいか。また、介護保険のサービスをどう使えばいいのか。そういった悩みの相談を行う仕事。二つ目は権利擁護の業務です。高齢者への虐待や、認知症があって金銭管理が難しい場合に弁護士につなげる業務。金銭的に難しい場合は法テラスなど国で行っている法律扶助がありますのでそういった機関につなげる役割を担っています。

三つ目は介護予防ケアマネジメント。介護を受ける前にそれを予防するという意味合いを込めて、地域にある運動できるデイサービスや地域のあるボランティアサロンを紹介しています。高齢者の方に運動習慣を持っていただいて健康体を保っていただくようなケアマネジャーの仕事も行っています。最後は、地域活動です。札幌市には10区の行政区があり、私はその中で豊平区を担当していますが、区内にある町内会や民生委員の方に対して厚生労働省から来た情報を提供することのほか、認知症の方々を支援するサポーター見守り要員を増やすことを目的に、認知症サポーター見守り養成講座を企画しています。また町内会に限らず、地区内にある大学、小中高を含めての養成講座も実施しています。地域住民の協力を受けることによって、高齢者が何らかの被害を受ける前にシャットアウトできる態勢をつくっていくこと。この四つを主眼に働いています。

――認知症の高齢者や老人の介護支援など、地域活動はうまくいっていると思いますか。

日本の高齢化率は令和4年度で28・9%に達しています。私が担当する札幌市豊平区も25%ほどになっています。4人に1人が65歳以上ですから、4分の3の人たちで高齢者を見守る態勢をつくらないといけません。ところが、主婦や企業で働いていらっしゃる方は、昼間仕事を持っているので見守りに参加できません。実際に高齢者を見守ることのできる人は限られてくるわけで、私たちとしては、そうした限られた人たちに適切で有力な情報を常に提供することは極めて大切だと考えています。というのも前述したように一般の地域住民の方の協力は今後の高齢者対策には欠かせないからです。従って,私たちも地域に出向き、認知症予防や介護支援について地域住民への周知活動を行い、町内会などから依頼などがあれば積極的に協力していくべきだと考えています。

――よく老人の一人暮らしの話を聞きます。独居老人は増えているとも聞きますが、現状はどうでしょうか。

それは増えてきています。かつて日本にあった数世代が一緒に住む大家族の文化がなくなり、核家族化が進んでいることから独居老人は増加傾向にあります。それは私が担当する豊平区でも例外ではありません。独居世帯に関して地域包括支援センターに相談に来るケースは1カ月100件ぐらい。「一人暮らしをされている家から異臭がする。死んでいるのではないか」「ごみ屋敷になっているのでは」とか、「デイサービスでホームヘルパーさんを紹介してほしい」「退院するに当たって、薬の管理をするための訪問看護師サービスを調整してほしい」といった相談があります。

厚生労働省の発表によれば、2019年度で「65歳以上の一人暮らしの世帯」は高齢者世帯全体の49・5%とおよそ半分近くに上ります。一人暮らしとは配偶者がいない高齢者を指しますが、施設に入っていらっしゃる方も含んでいます。ただ、高齢化が進めば、この割合はさらに増加していくと思いますし、私の担当している豊平区も同じような状況になっています。

――そうした中での課題はどんなことがあると思いますか。

まず、感じることは需要に対して供給は追い付いていない。高齢化は進んでいきますから訪問介護サービスを受けたいというニーズは増えていくことは確実です。しかし、現在の介護システムでは介護の事業所を経営していく上で事業所に入ってくる報酬が十分ではないため、経営者が事業所を畳んでしまうケースが多い。事業所を立ち上げても1年で閉じるケースが半分ほどあります。厚生労働省はそうした点をしっかりと見詰めながら予算面での配慮が必要だと思います。

一方、介護を受ける側の立場からすれば、自分の健康は自分で守るという意識をもう少し強くすべきではないかと思います。これはあくまでも個人的な意見ですが、日本人は社会保障あるいは行政に依存する傾向が強いのではないでしょうか。全員とは言いませんが、日本人の考え方として「病院に行けばいい」「薬を飲めばいい」「行政機関に相談すれば何とかなる」といった他人(ひと)任せのところが見受けられます。もちろん、これは悪いこととは言えませんが、独居老人になったとしても自分を守る対策はあると思います。

地域活動をしていると、よく元気な老人に会いますが、共通しているのは「よく食べ」、「よく寝て」、「よく運動している」、「人とよく交わっている」ことです。これに尽きます。地域の運動会や祭りなどの行事に参加するなど積極的に人と交わる努力も大事。こうした意識を持って日常生活をするのとしないのでは、健康面でも大きな差が出てくると思います。

――西垣さんは社会福祉士として地域活動にも積極的に活動していますが、そこで心掛けていることは何ですか。

お年寄りの方とお話しすると、その方の人生を話して下さるのですが、それがとても勉強になります。また、私自身、日常の生活や仕事をする上で四つの点を意識しています。一つ目は体を鍛えること。二つ目は心を鍛えること。三つ目は仲間をつくること。四つ目は社会貢献すると同時にお金を稼ぐことです。


【メモ】少子高齢化が進むわが国にとって、高齢者対策は急務である。そうした中で西垣さんのような若者が現場に入り、地域のお年寄りと向き合って課題解決に取り組んでいるのは実に頼もしい。中でも自分の健康は自ら守っていくという言葉は説得力があった。

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