台湾侵攻時、露・北が陽動作戦も

ウクライナ侵略と台湾危機―国際関係アナリスト 松本 利秋氏に聞く

米軍や自衛隊の分散狙 中国、弱いイノベーション力

破壊されたロシア軍の車両の近くを歩くウクライナ兵ら=キエフ近郊のブチャ 2022年4月4日(UPI)

ロシア軍のウクライナ侵攻から今月下旬で半年を迎える。東アジアでも懸念される中国の台湾侵攻リスクの高まりや武力威圧を強化する北朝鮮など、ユーラシア大陸の東西で安全保障問題が急浮上している。最悪のシナリオは中国、ロシア、北朝鮮が強力なタッグを組んで西側に立ち向かってくることだ。それがあり得るのか、国際関係アナリストの松本利秋氏に聞いた。(聞き手=池永達夫)

まつもと・としあき 1947年、高知県安芸郡生まれ。71年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士。ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテーター、各種企業、省庁などで講演。著書に「地政学が予測する日本の未来」「麻薬第四の戦略物資」など多数。

――ロシアのウクライナ侵略戦争では何に注目しているのか?

ドローンの活躍だ。

孫氏の兵法の一つに、戦争では丘を取れというのがある。古代の戦争でも、丘に立てば敵味方の大局が分かり、戦略を立てやすい。近代でも大砲を撃つ時、地勢的に有利だった。日露戦争における203高地争奪戦がいい例だ。旅順港のロシア艦隊を正確に砲撃するための観測地点として重要であったから、日本軍は多大な犠牲を払ってまで奪取した。

だが現在はドローンを飛ばせば、どこにでも丘が出来てしまう。

それが戦場で無数、飛んでいる。どこに軍隊を集結させようと、ドローンのカメラの前には丸裸だ。

そこに照準を合わせ、どんどん撃てる。あとは砲が高性能であり、砲弾の飛距離が長距離であればいいだけだ。

これが今、やっている戦闘の基本的な在り方だ。

ところがロシア軍というのは、戦車を連ねた大戦車戦をやろうとした。

つまり発想や作戦の立て方、陸海空を結ぶ統合通信などとか、システムとしての戦争という点では前時代的でしかなかった。

ロシア軍はクリミアの時には、一部優れたこともあったけど、その経験が生きていないし徹底していない。システムとして新しいイノベーションを取り込めていなかった。

一方、これまでロシアが戦った戦争というのは、シリアであったり、チェチェン、クリミアだったり、相手側の主な武器もロシア製だった。結局、第2次大戦以降、ロシアは外国と戦ったといっても、自国製の武器で装備している軍隊と戦っただけだ。そういう戦いしか、してこなかった。つまりロシアは、国際戦争を戦ったことがない。

これから本格的な戦いになってくると、米国製や西側の高性能武器を相手に、ウクライナが西側から供与された武器を使いこなしているかは別として、局面は変わってくる可能性がある。

――長期戦になるのか?

戦争は長期戦にならざるを得ないだろう。

欧米はインフレとか、景気は悪いとされるが、兵器産業は特需で活況を呈している。

――ロシアはウクライナ侵略で何を得たいのか?

とりあえずはウクライナ東部に集中する軍需産業を確保することだろう。

ウクライナ国民は、北大西洋条約機構(NATO)に加盟したがっている人とそうでない人とはっきり分かれる。

ドネツク州やルガンスク州など東部は旧ソ連時代、すさまじい軍事開発都市だった。原子力潜水艦も造っているし、中国が空母に仕上げた「遼寧」もウクライナ製だ。戦術ミサイルシステムのイスカンデルもウクライナ製で、ルガンスク州などで造っていた。

彼らは西に行きたがらない。いまさらポーランドの風下に立ちたくない。それが基本的にある。

そういうところから外れた穀倉地帯にいて、小麦などを作っていた人たちは、西に行きたい。

 ――今年度のわが国の防衛白書は、中国とロシアの軍事協力を深化させる可能性に言及した。昨年10月に10隻の中露の艦隊が日本を周回し、今年6月にも時差はあるものの中露の艦隊が共にわが国を回った。これをどう見るか。

一番、懸念されるのは中国が台湾侵攻に出る時、陽動作戦としてロシア軍を使うことだ。

ロシア単独でも中露共同でも、北海道周辺で武力示威行動を取れば、自衛隊はそちらに兵力を割かないといけなくなる。その分、主力を置いている南西諸島周辺に隙が生じることになる。

ただ中国の核心的利益になっている台湾に、ロシアはほとんど関心がない。それでやられたりしたら、ロシアにとってばかばかしい話だ。

その意味で、台湾侵攻の陽動作戦には北朝鮮を使うと思う。北はロシアのダミーとして動くことに躊躇(ちゅうちょ)しない。

例えば38度線を越えて入って来るとか、核実験をバンバンやるとか、なんらかの形で威嚇し、そちらに米軍を張り付けておく。

そもそもウクライナ東部のドネツク、ルガンスク独立を北朝鮮は承認した。第1回の駐露北朝鮮大使とドネツク・ルガンスク両人民共和国大使とのモスクワ会談も行われている。

その会談では朝鮮人労働者を送り込むことが話し合われた。北朝鮮は外貨は稼げるし、ルガンスクは真面目に働く労働者を確保できる。さらには露国営TVチャンネル1で北朝鮮軍10万人の派遣が表明され、ウクライナの最前線に投入されるという。

――北朝鮮の核やロケット技術はどこから?

ウクライナからきている。ソ連邦時代、ウクライナと北朝鮮は技術協定を結んでいたがソ連崩壊で、ウクライナ技術者を北朝鮮に招いている。

 ――韓半島が台湾侵攻の前哨戦として使われる可能性があるということだが、陽動作戦の指示を出すのはロシアになるのか、あるいは中国なのか。

習近平が台湾侵攻の決心をすれば、さまざまな形で動くことになろう。

いずれにしてもダイレクトに台湾侵攻に出るのは稚拙・拙速で、その前に邪魔になる米軍や日本の自衛隊を分散させようとする。

――中国の弱点はどこにあるのか。

一党独裁の上位下達型統治では、イノベーションが起こりにくい。

現場の技術者がいくら、こうしないといけないと分かっていても、必ずしも適材適所の人材を使えるわけではない。それが強権統治社会のジレンマだ。

中国人民解放軍の中には政治委員がいて、党の意向を軍に反映させる役割を持つ。これはナチスドイツもそうだった。

陸軍大将が艦隊の総司令官になるようなこともある。軍事技術が進むと軍は専門家集団の様相を持つが、高度なシステムをオペレートできる専門家集団となっているのが世界の主流だ。トップが細部を理解できないとリーダーシップを発揮するのは難しくなる。

【メモ】松本氏は2度ほど、北方領土を訪ねている。この時、住民の多くはロシア人で占められていたものの、第2の民族はウクライナ人だったことに松本氏は驚く。第二次世界大戦時、ウクライナから攻め込んで来たナチスドイツ軍に協力し、ソ連と戦ったウクライナ人がいた。これが戦後、スターリンの逆鱗に触れ、ウクライナ人をシベリアや北方領土に送り込んだ。だからウクライナ問題は北方領土に連結しているという。

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